今回、特別チームの座長を務めたのは、元検事総長の林真琴弁護士だ。同じ元検事であり、企業のコンプライアンスにも詳しい郷原信郎弁護士は、今回の報告書をどう感じたのか。
「報告書は相応に事実も明らかにされており、原因分析、再発防止策もそれなりに書かれていました。予想していたよりよくできた報告書だと評価できます。ただ、企業の不祥事に対する調査と報告という点ではいいと思うのですが、ジャニーズ事務所という組織は、かなり特異な個人事務所ですよね。ジャニー喜多川氏というタレントを選別し育成する天才的な能力を持った人がいて、その人が芸能界でタレントに大きな付加価値をつけていくなかで、どんどん富を拡大し、ジャニー氏の意向に沿って動く社員やスタッフが増え、それが株式会社の形式になっていたというだけです。だから、一般の株式会社と比較して取締役会が機能していなかったとか、取締役が何かの義務に反していたと言ったところで、ジャニーズ事務所にはそのまま当てはまらないような気がします。ジャニー氏がいなくなった状態で、ジャニーズ事務所が芸能事務所として本当にやっていけるのかも疑問ですし、そもそも、ジャニーズ事務所が設置した特別チームの報告書なので、そこには限界があるなと感じました」
ただ、そうした限界がありながらも、高く評価できる点がひとつある、と郷原氏は語る。
「問題の背景として『メディアの沈黙』を取り上げたのは非常に評価できる。事務所内部からは声を上げられなくても、外部からはジャニー氏の性加害に気づけた局面があったにもかかわらず、メディアはそれに対して問題を指摘したり、批判をしたりすることがほとんどできなかった。その方がはるかに大きな問題で、その一端を調査報告書で『メディアの沈黙』という言葉で示したことに意味があります。欲を言えば、なぜこの問題に沈黙してきたのか、なぜ見て見ぬふりをして対応を取らなかったのかについて、特別チームはマスコミに対して直接調査はできないとしても、それについて第三者調査などの対応を求めてもよかったと思います。ジャニーズ事務所の問題に対して、ずっと報道機関としての自律性、自主性が失われていた。これはジャニーズに限らず、政治権力などすべてに対して言えることであり、報告書がそこまでつなげてくれるとなおよかったと思います」
すでにジュリー氏の社長辞任が決まっているとの報道も出始めているが、社長本人から直接の説明はあるのだろうか。ジャニーズ事務所からの発信が待たれる。
(AERA dot.編集部・上田耕司)