そのトレーナーによく在日米軍関係者が利用するホテルのレストランに連れていってもらったのも、彼には大きな刺激になったようです。帰りに仲間とカラオケに行くなど、寄り道していた日もあったと聞きます。色んな体験で彼らの視野が広がれば、それもいいと思いました。
車のハンドルと一緒で、遊びがないと上手にコントロールできません。ギアがずっとトップに入っていたら、選手がもちません。
私も若い頃はむちゃもしました。選手が逃げ出さないようベルトで体をつないで寝たこともあります。そのやり方では体力がつきますが、同時に失いもします。集中力もつきません。
大事なのはメリハリ。松坂のときは夏場に体をいじめ抜く合宿をしました。一方で、冬場は温泉地で座禅とスキーしかしない対話合宿をしています。
1年秋からエースになった松坂は、2年春には注目される投手に成長しました。しかし、夏は神奈川大会の準決勝で横浜商に敗れます。幕切れは自身のサヨナラ暴投。相手のスクイズを察知して外したボールが、大きくそれてしまったんですね。彼の分水嶺になった試合です。
いわば独り相撲をとって、先輩たちの高校野球を終わらせてしまった。私は慰めませんでした。はい上がってくるのを待つことにしました。栄光より挫折、勝利より敗北、成功より失敗から学ぶことがあります。この試合を松坂が自分で次に生かせないと意味がありません。