「汗に対してネガティブなイメージがあると、それを隠したいという思いが強くなり、人とコミュニケーションをとるのを避けるようになります。汗が気になって自分の能力を最大限に発揮できず、自己肯定感が下がったり、不安感が強くなったりすることもあります。さらに職業の選択にも制限が出て、制服がある仕事、手を使う仕事、例えば医療や美容関係の仕事などは諦めてしまうこともあるのです」
汗に対する悩みを誰にも打ち明けられずに、一人で抱え込んでしまうこともあります。藤本医師は「自分を大切に思ってくれる人には、汗の悩みを打ち明けてほしい」と話します。近年は多汗症による生活などへの影響が認められつつあり、治療によって悩みが解決することもあります。「ただし、子どもの治療は慎重にするべき面もある」と藤本医師。
「使用できる薬には年齢制限があるので、大人と同様の治療が受けられないこともあります。また、特に子どもに対しては『汗は悪いものではなく、汗を出すことは、体にとって必要なことである』という正しい知識を伝えることも大事です。保護者が気にしていても本人が困っていなければ治療の必要はないですし、過度な治療をしないように慎重に見極める必要があります」
年齢を重ねると気にならなくなることもある
多汗症で悩むのは10~20代が多く、特に治療をしなくても自然に治まっていくケースも少なくありません。皮膚の病気と精神疾患の関連に詳しい、はしろクリニック院長の羽白誠医師はこう話します。
「多汗症の人は緊張に伴って大量の汗をかきますが、一般的に年齢を重ねるごとに緊張しやすさというのは和らいでいく傾向があります。さらに自律神経の反応も鈍くなっていきます。いつの間にか、汗が気にならなくなっているということもあるのです」
多汗症は病気として認識されるようになってから、まだ十数年しか経っていないため、十分に周知されていないのが現状です。多汗症は子どもの生活や将来に影響を及ぼす可能性があること、治療が可能であることなどが、学校現場や保護者の間でも広く理解されることが望まれます。
(文/中寺暁子)
池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 院長 藤本智子医師
2001年、浜松医科大学医学部医学科卒。同年、東京医科歯科大学皮膚科入局。同大皮膚科助教、多摩南部地域病院皮膚科医長、都立大塚病院皮膚科医長などを経て17年から現職。東京医科歯科大学病院皮膚科の発汗異常外来を05年から担当。日本皮膚科学会認定専門医・指導医、日本発汗学会理事、日本臨床皮膚科医会常任理事。
池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 東京都豊島区西池袋1-39-4第一大谷ビル3階
はしろクリニック 院長 羽白誠医師
1986年、大阪大学医学部医学科卒。箕面市立病院、関西労災病院、大阪大学大学院医学研究科非常勤講師、国立大阪病院、大阪警察病院などを経て、2010年から現職。日本皮膚科学会認定専門医、日本心身医学会心身医療専門医、日本皮膚科心身医学会理事長。
はしろクリニック 大阪府大阪市北区梅田1-2-2-200大阪駅前第2ビル2階
連載「名医に聞く 病気の予防と治し方」を含む、予防や健康・医療、介護の記事は、WEBサイト「AERAウェルネス」で、まとめてご覧いただけます