出版社に勤めるKさん(58)はこう話す。
「中国と距離を置こうとする民進党がジェンダーレストイレの普及の動きを利用した節もある。中国はウイグル人問題で世界の批判を浴びていた。台湾はマイノリティーにも考慮していると世界にアピールしようとした。2015年にはじまった補助金制度がそれ。2016年には総統になった民進党の蔡英文氏が、少数民族である先住民に正式に謝罪している。中国へのさや当てとも映りますね」
しかし、ジェンダーレストイレがもろ手をあげて受け入れられたわけではない。現地ニュースサイト「ET today新聞雲」によると、ある男子生徒は、「(男子トイレを改装したため)小便器の数が減り、おまけに使用時には鍵をかけなければならないから不便だ」と不満を口にしている。女子学生は「安全面が不安」とも。「ジェンダーレストイレを使うことでそう見られるのが心配」という声もあった。
女子高校生のAさん(15)はこう言う。
「ジェンダーレストイレは必要。でも選択肢があるなら女子トイレを使う。だってなんだか気まずいし、落ち着かない。みんなが使っているなら使いやすいんだけど……」
実際、ジェンダーレストイレがうまく機能していない面もある。台北市立天文科学教育館で探したが、それらしきトイレがない。係員に尋ねると男女の性別マークのついたトイレを案内された。入ってみると、通路の先に女性用のトイレ。その奥に男性用。どう見ても男女別のトイレにしか見えない。
国立台湾科学教育館には性別友善廁所があった。しかし中央に壁があり、男性用と女性用が分かれている。入り口は確かにひとつだが男女別のトイレが並んでいる印象が拭えない。
台北の都市高速鉄道、MRTの国立台湾大学病院駅にもあるという話だったが、その場所には男女別のトイレと車いす利用者や子連れにも優しい多目的トイレ(バリアフリートイレ)が並んでいるだけだった。多目的トイレは、たしかにジェンダーレストイレとしても活用できるが……。