日本では、役所のトランスジェンダーの職員が女性用トイレの使用を制限されているのは違法という最高裁の判決が出た。しかし台湾にはすでに多くの場所に「トランスジェンダートイレ」が設置されている。アジアでは最も多く、世界でもトップクラスの数ともいわれる。
なぜ、台湾ではここまでジェンダーレストイレが普及したのか。
事件きっかけに法律も制定
きっかけは2000年に起きた「葉永鋕(イエ ヨンデー)事件」だった。
屏東県高樹村の当時中学3年だった葉少年は、血だまりのなか、トイレで倒れているところを発見された。頭や鼻から血を流していて、病院に運ばれたが翌朝死亡した。
葉少年は幼いころからままごと遊びが好きで、女性らしい雰囲気があった。中学でいじめに遭い、同級生から無理やりズボンを脱がされることもあったという。休み時間にトイレへ行けず、授業中に許可を得てトイレに行くことしかできなかった。
発見時、葉少年のズボンのファスナーは開いたままだった。であったが、争ったような傷痕はなく、司法解剖の結果、気管支肺炎や心筋症による突然死とされた。後の裁判でも、過去の経緯から血管迷走神経失神で意識を失い、頭部を強打したことによる頭蓋内出血の可能性が示唆された。
この“事件”をきっかけに、学校での性的マイノリティーの問題が浮上する。2004年、政府は旧態依然とした性教育を修正し、より踏み込んだ男女平等、異なる性別や性的指向、性自認、性表現も含めた平等教育を掲げた《性別平等教育法》を制定した。葉少年の関連映像を集めた記録映画「玫瑰少年」は、高校の多元的なジェンダー教育の教材にもなった。
この流れは大学、公共施設などのトイレの改修を促していく。2011年、台湾初となるジェンダーレストイレが世新大学に誕生した。小便器、洋式・和式トイレ、バリアフリースペースがひとつとなったこのトイレは世間を騒がせた。
その背景を台湾と中国の関係に結びつける人もいる。