仕事以外の人間関係では、特にこの二つが繰り返されます。
「他人に迷惑をかけないように」が害毒なのは、「迷惑か迷惑じゃないかを決めるのは、相手であってあなたではない。あなたは相手じゃないんだから、何が嬉しくて、何が迷惑かを勝手に判断できる立場にない」ということです。
「あなたのためを思って言ってるの」が害毒なのは、「期待するのは、自由。でも、それを口に出して押しつける権利はあなたにはない。あなたが相手から具体的な被害を受けて、それを排除したくて言う以外は、大きなお世話」ということです(僕は子供に対しても、この言い方はしない方がいいと思っています。相手を思考停止にして、自分で考える機会を奪うからです)。
僕は、理想の人間関係は「自由の相互承認」だと思っています。これは教育学者の苫野一徳さんが仰っていることですが、僕なりに言うと「あなたが私の自由を侵害しない限り、私はあなたの自由を認めます」ということです。
自由というのは、「わがまま勝手」という意味ではありません。人間関係において「わがまま勝手」に振る舞えば、間違いなく、相手の自由とぶつかります。
あなたを一人の人間として尊重し、あなたの自由を承認するから、私のことも一人の人間として尊重し、私の自由を承認してほしい、ということです。
もちろん、これを実現するのは、簡単なことではありません。でも、人間関係に悩んだり、相手に過剰な期待をしたり、相手から余計なお世話の言葉をもらったりして混乱した時に、一番大切なことは何かを教えてくれる指針になると思っているのです。
「もっとおしゃれしたら」とか「やせろよ」とか「結婚はまだなの?」「頭、薄くなった?」とか言われた時に「私はあなたの自由を何も侵害していない。だから、私の自由も干渉しないでほしい」と考えられるということです。
どうですか? たまきさん。これが僕が考える「こうあるべき」の原則です。
■本連載の書籍化第4弾!『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談』が発売中です。書き下ろしの回答2編も掲載!