エジソンは、小学校時代は授業についていけない劣等生で、教師にバカにされたのをきっかけに不登校になり、自宅で自分が興味ある勉強をして過ごした。それが独創的な発明につながっていった。ものごとをじっくり考えるタイプのエジソンにとって、みんなのペースに合わせて学習するというスタイルが合わなかったのだ。

 科学者のアインシュタインや発明家のエジソンに限らず、哲学者ニーチェも、心理学者ユングも、わが国を代表する作家夏目漱石や芥川龍之介、詩人の萩原朔太郎、立原道造も、自分の内的世界を探求することが偉大な業績に結びついたのである。

 べつに何か独自な発見をするわけでなくても、自分の内面に目を向けることで、これまで忙しかったときには気づかなかった自己発見ができるかもしれない。

 外向的に生きなければならない職業生活からせっかく解放されたのだから、みんなの動向ばかり気にしたり、情報に触れることにばかり熱心にならずに、周囲と遮断された環境に身を置く時間も大切にすべきだろう。そうでないと自分独自の世界ができてこない。自分独自の世界をもたない人間が、「自分らしく」とか「個性的に」などと言っても、そもそも個性的なその人らしさというものがみられない。

榎本博明 えのもと・ひろあき

 1955年東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。『「上から目線」の構造』(日経BPマーケティング)『〈自分らしさ〉って何だろう?』 (ちくまプリマー新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『自己肯定感という呪縛』(青春新書)など著書多数。

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