※写真はイメージです(Getty Images)

 洪水のように情報が流れ、目まぐるしく勢いで変化する現代社会。そのスピードに対応することが求められているが、そうした現状に心理学者の榎本博明氏は警鐘を鳴らす。新著『60歳からめきめき元気になる人 「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、解説する。

【図】外向型の圧力の例はこちら

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内向してみるのもよい

 私たちの人生をたどってみると、内向の時期と外向の時期がつぎつぎに交代して訪れていることがわかる。

 乳幼児期は、内向の時期である。まだまだ現実との接触が少ないうえに、認知機能も未発達で、空想の世界に浸るなど非現実的な世界に生きている。

 幼稚園に通うようになると現実との触れ合いが多くなるが、小学校では本格的な勉強が始まり、現実社会を見る目が養われ、大人の目の届かないところでの友だちづきあいも進み、現実の厳しさに揉まれて暮らすようになる。言ってみれば児童期は外向の時期である。

 青年期のはじめの頃を思春期と呼ぶが、自我の目覚めと言われるように、自己意識が高まる。見る自分と見られる自分に引き裂かれ、絶えず自分を意識するようになる。そして、「なんで自分はみんなと違うんだろう?」「自分らしさって何だろう?」「自分はどう生きるべきなんだろうか?」「どんな生き方をするのが自分にふさわしいんだろうか?」などといった自己のアイデンティティにまつわる問いが頭の中を駆けめぐるようになる。そのような意味において、青年期は内面を耕す時期であり、内向の時期と言える。

 学校を卒業し就職すると、仕事に慣れ、会社などの組織に馴染むために一生懸命な毎日が続くようになり、自分のことを振り返る暇がなくなる。その意味で、成人前期は外向の時期と言える。

 働き盛りを過ぎる中年期になると、「このまま突っ走ってしまっていいんだろうか?」「今の生き方を続けて後悔しないだろうか?」「これが自分が望んだ人生なのだろうか?」「自分らしい人生になっているだろうか?」「何か過去に置き去りにしてきたことはないだろうか?」「もし生き方を変えるなら今のうちだ」などといったアイデンティティをめぐる問いが再び活性化してくる。自分の心の声が聞こえてきて、現実の歩みが一時的に止まってしまうこともある。その意味で、中年期は内向の時期と言える。

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