こう話すのは、イングリッシュ・ドクターの西澤ロイさんだ。西澤さんは、言語は子どもでも使えるようシンプルにできていると指摘する。大人がそれを使えないのはどこかに躓(つまず)きがあるから。その躓きを、西澤さんは「英語病」と呼ぶ。
西澤さんが「まず治すべき」という症例が「アイキャント症候群」だ。ほとんどの人は自分の名を英語で名乗れるだろう。住んでいる場所も「I live in Tokyo.」などと話せるはずだ。
「極めつきは、『英語が話せない』と英語で言えるんです。『I can’t speak English.』。海外から来た外国人が『ワタシ、ニホンゴハナセマセン』と言ったら、もう話してるじゃん!とツッコむところですよね(笑)」
では、アイキャント症候群の日本人への処方箋は何か。西澤さんは「日本語の話し方を変える」という発想が重要だと言う。
「日常会話に必要な単語数は日本語が5千、英語は2千ほどと差がある。にもかかわらず多くの日本人は、話したい日本語を英語に直訳しようとする『直訳スピーキング病』にかかっています。英語にする際にはまず頭の中で日本語を簡単な言葉に『ほぐす』必要があるんです」
たとえば、「私はチョコレートが何よりも好きです」を英語でどう話すか。つい「どう言えば」と気になりがちなのが「何よりも」という言葉。これ、細かいところにこだわってしまう「重箱コーナー病」だという。
「英語は50%伝われば万々歳、くらいでいいんですよ。この例文なら『何よりも』は『とても』や『大好き』に置き換えて、『I like chocolate very much.』『I love chocolate.』などとすればいい。まずは『英語にしやすい日本語に頭の中で置き換える』練習をするのがコツです」
もう一つのコツは、「英語の語順で日本語を話す」。「私はサンドイッチを食べました」を英語で言う場合、「I ate a sandwich.」。日本語とは語順が違うことに気づく。
「その語順で日本語を言ってみると、まず『私、食べたんです』。気になりますよね。何を食べたんだろうと。そのあとに『サンドイッチを』と言われたら大げさな!と思うでしょう。でもこれが英語の普通の語順。まず主語→動詞の順番に日本語を変換する『大げさトーク』の練習をすることが効果的です。そのあとに必要なら『どこで』『いつ』などの要素を付け加えていくという発想です」
必要なのは「英語を使わない」英会話トレーニング。西澤さんが行う研修や講座では、2時間で英語は1割、残りの9割を日本語を話す練習に費やすという。(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年7月31日号より抜粋