写真はイメージです(Getty Images)
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、男のニヤニヤ文化について。

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 連休中、旅先で出会った日本の男たちの話です。

 漁港の町で。地元の人が教えてくれた寿司屋のカウンター。ホヤ、イカ、鰹、サバ……どれも美味しくうっとりしていたところ、寿司職人(60歳ぐらい?)の男性の背後にあった酒のメニューに箸の手が止まった。「チンチンボー○○円 マンコー○○円 クリコー○○円 ペニ黒○○円」手書きのメニューである。それぞれの名前の下には()付きで正式な日本酒やウイスキーの名前が記されていた。

 同時に “それ”に気が付いた友人が「これ、どういう意味?」と聞くと、カウンターに並ぶ常連客が、「冗談、冗談」と笑い、寿司職人もニヤニヤとするのであった。その瞬間、口の中のトロがゴムになった。それ以降、何も口に入らなくなってしまった。イクラが残っていたけれど無理だった。

 というと、まるで繊細な規律委員みたいに思われるかもしれないが、忘れないでほしい、私はバイブ屋である。気持ち悪いのは性器の名ではなく、男のニヤニヤだ。下ネタで男たちが安心して笑える空間は、結局のところ、女性の反応を男たちが楽しむためのものだ。なかには過剰順応して、マンコーください! と大声で注文するような女もいるだろう。でもそれすらも、結局は男の娯楽。ただフツーに食事を楽しみたい場所ですら、男の空間として女が娯楽の対象となるのが、日本全国の日常の景色になってしまっているのだろうか。

 翌日、気を取り直して朝市に出かけた。朝5時から開かれる漁港の朝市にはずらりと、あげられたばかりの魚介だけでなく、野菜や、自宅でつくった総菜や、庭で採れた花を売っているおばあさんもいる。その場で挽いたコーヒーを飲み、その場で焼かれたパンを食べ歩きしながら潮の香りを感じ、ああ幸せ~! な思いでいたところ、キュイーーーーーーーーン! と耳をつんざく爆音が響き、女性たちの甲高い声で○◇##△$¥$%#!“!”$#$&&”! と全く聞き取れない歌が始まった。声のするほうに行くと女子高校生風の制服姿の若い女の子たち数人が、元気になろうー! みたいなことを歌い、踊っていて、その周りをオジサンたちが取り囲んでいた。とたんに、キラキラしていた朝市が秋葉原と同じ景色になる。所構わず、時を選ばず、「制服姿の女の子」を必要とするのはいったい誰の欲望なのか。ここでも規律委員みたいな顔を私はしていたのかもしれないが、「若い女の子が踊っているのを見るのがイヤ」なのではなく、日本全国どこに行っても「制服姿の若い女に癒やされるのを当たり前と思う男たちのニヤニヤ」がイヤなのである。

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男のエロと男の癒やしの文化がスタンダードに