
球団コーチ時代に接したダルビッシュ、大谷、佐々木には共通項があったという。
「メタ認知が優れていた。自分を知り、自分が今どうなっているのか把握する能力が高かった。特に、ダルビッシュや大谷には言うことはなかった」
それでもダルビッシュは不意に「何球目はどうでした?」と聞いてくることがあり、一時も気を抜くことができなかった。また日増しに球速を上げる大谷の右腕が気がかりだったが、日本には参考文献がなく米国のオープンデータを読みあさり肘の負荷を研究した。結局大谷に質問されることはなかったが、無駄になってもコーチとして必要なあらゆる準備をしておきたかった。
入団当初から指導している佐々木には、5年計画で成長プログラムを組んでいる。まだ体の組成が固まっていないため、コンディショニングのデータと本人の状態を聞きながら登板日やイニング数を決めてきた。5年目となる来年には、日本が誇る絶対的なエースに成長すると胸を張る。
ロッテ監督に就任して3カ月半。打線は猫の目のように変わり、体のフレッシュな選手を優先して起用している。選手に無理をさせず、今いる選手で最大のパフォーマンスを引き出すのが監督の仕事と考えているからだ。だが成功することもあれば失敗することも。
「ベテランを起用し目の前の勝利を掴(つか)みたい欲求もありますが、若い選手に緊迫した場面を経験させたい。失敗した方が選手は伸びる。シーズン最後の歓喜を考え、今はじっとやせ我慢です」
吉井が選手の成長に全力を傾けるのは、野球というスポーツを心から楽しんでほしいからだ。選手が躍動すればそれがファンに伝わる。WBCでは侍たちは、勝負という際(きわ)に立ちながら野球をむさぼり楽しんでいた。だからこそ多くの人が熱狂した。吉井は日本シリーズで再び感動を演出できるか。(文中敬称略)
(文・吉井妙子)
※AERA 2023年7月24日号