WBCでの日本優勝の余韻は、まだ残る。名場面が何度も生まれたが、世界最強の投手陣を編成したのが吉井理人だ。今シーズンから千葉ロッテマリーンズの監督に就任。血気盛んだった選手時代とは変わり、おやじギャグを交えて率いる。自分が選手だったときに嫌だったことはやらない。まずは選手を観察する。ときにやせ我慢をしつつ、勝利を引き寄せる。
【写真】落ち込んでいる佐々木に、さりげなく声をかける吉井監督
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日本列島を熱波に包んだWBC(World Baseball Classic)。大会から4カ月が過ぎたが、その残り香は未(いま)だ漂っている。6月に1カ月間限定で上映されたWBCのドキュメンタリー映画「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」は、上映館が限られていたものの85万人を動員する大ヒットとなった。
今回のWBCで、特に活躍が際立ったのが大谷翔平(29)やダルビッシュ有(36)、佐々木朗希(21)などを擁した投手陣だ。大会7試合で自責点は僅(わず)か16。防御率も2.29で大会トップ。野球の母国・米国に鮮烈な印象を残した。
“世界最強”の投手陣を編成したのはWBCで投手コーチを務め、今シーズンから千葉ロッテマリーンズ監督に就任した吉井理人(よしいまさと・58)。
吉井は日ハムコーチ時代にダルビッシュや大谷をサポートし、2019年にロッテ投手コーチに就任して以降、佐々木を入団当初から指導している。いうなら誰もが認める名伯楽であるものの、WBCを戦う投手選考に驚いた人は少なくない。
東京五輪の金メダルメンバーのほとんどが外れ、吉井が選んだ投手はまだ国際大会の経験が少ない20代前半の若手が大勢を占めたからだ。短期決戦の定石では実績や安定感のある中堅・ベテランが選ばれ、海外のパワーヒッターをかわす技巧派が重用されてきた。
だが吉井は違った。得意とするデータを駆使し、メジャーリーガーの打撃傾向を解析。彼らに対応できる速球と制球力、縦の変化球を得意とする選手を抜擢した。つまり、かわすピッチングではなく、力対力の真っ向勝負を挑んだのだ。
「投手陣を選び終えた時点で、口には出さなかったけど、世界一になれると思いましたよ」