「国を挙げて減塩政策を実践し、成功したのがイギリスです。減塩に取り組む企業に対しては減税し、そうでないところは増税して、主食のパンを中心に少しずつ塩分含有量を減らしました。それにより国民全体が減塩でき、年間1万人の循環器疾患による死亡者が減ったとされています」(同)
野出医師も、「社会的予防が重要」と話します。日本高血圧学会では、食品のおいしさをできるだけ維持しつつ塩分を減らす取り組みを産業界に提言し、とくに減塩に貢献している製品に「減塩食品アワード」を授与。多くの企業の協力により、2013年以降で累計8530トンの減塩につながっています。
さらに、早期の啓発を目的として、中学生と高校生が対象の高血圧の授業や血圧測定も開始しました。
「若い世代に高血圧を理解し、関心を持ってもらうため、佐賀大学と佐賀市の学校が連携し、高血圧の授業と血圧測定をおこないます。来年度からは学校での血圧健診も始める予定で、早期からの血圧管理・生活改善で将来の高血圧を予防すること、子どもの血圧管理をきっかけに家族全員の生活改善と高血圧予防につなげることを期待しています。まずは週に2、3回でもいいので、家庭で血圧を測る習慣をつけましょう」(野出医師)
(文・出村真理子)
勝谷医院 院長 勝谷友宏(かつや・ともひろ)医師
1989年、和歌山県立医科大学卒業。93年、大阪大学大学院修了、スタンフォード大学医学部Falk心臓血管研究所 postdoctoral fellow、98年大阪大学医学部助手などを経て2019年、同大学院招聘教授に就任。09年から勝谷医院院長。大阪医科薬科大学教育教授など、大学でも教鞭を執る。日本高血圧学会理事、日本抗加齢医学会理事、日本血管不全学会理事、兵庫県内科医会会長など。医院の診療で地域の人々の健康を支えつつ、大学や学会での研究などにも参加し、高血圧に関わる研究での受賞も多数。
佐賀大学病院副院長・循環器内科 主任教授 野出孝一(ので・こういち)医師
1988年、佐賀医科大学医学科卒業、大阪大学病院第一内科医員。97年、同大学院修了。ハーバード大学博士研究員、大阪大学第一内科講師を経て、2002年から現職。22年、副病院長に就任。日本循環器学会常務理事・学術委員長、日本高血圧学会理事長なども務め、高血圧などに関する研究、啓発活動、国民の健康増進のために尽力。
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