やられてもやり返さない
アンチの人も抱きしめる
17年ごろから、雑誌や新聞の取材で自分を隠した中学時代のつらさ、故郷・沖縄への思いなどを話し始めた。バラエティー番組ではマジメな話をしたらアウト。でもSNSならできる。それまで眠らせていたものが自然に湧き出てきた。
「おバカキャラだと思っていたけれど、バックグラウンドを知って点と点とがつながった、って言ってくださる方がいて嬉しかった。自分はヘアバンド時代から変わってない。でも人が受ける印象は違うかもって思っていたから」(ryuchell)
実際SNSで心ない言葉を投げつけられることもある。あるとき書き込まれた「ブス、死ね」のメッセージ。だが考えた。その言葉を、わざわざ知らない僕に投げつけなければやっていけないその人には、どんなことがあったんだろう。言葉の裏に思いを巡らせ、こう返信した。
「僕は可愛いし、生きます。そしてあなたも、生きて」──。ryuchellは言う。
「学生時代からSNSで『男なのにメイクして』とかディスられることもたくさんありました。当時は向こうがレベル3できたら、10で返す! みたいなこともしていたんです。でも原宿時代にSNSの裏アカウントで人の過去を暴露するとか、汚い裏側を見て、やられたらやりかえす、とかはやめよう、って思った。アンチも抱きしめてあげよう!って決めたんです」
僕のテーマは愛だから。そう言えるのは自身が愛をたくさんもらってきたからだ。だから人にも愛を分けてあげたい。ryuchellの行動原理はここにある。pecoも言う。
「ryuchellがあのスタイルで、ありのままでメディアに出たことで、勇気をもらえた人はきっといると思う。自分らしさを隠していた経験があるからこそ、同じような悩みを持っている人に寄り添える。いま、そういう経験を発信して仕事にさせてもらっているのはすごいことだし、なるべくしてなったのかな、と思います」
そしてこの夏の終わりに、ryuchellとpecoは話し合い、「夫婦」を卒業する決断をした。「夫」らしく、正真正銘の「男」でいないといけない、ということにつらさを感じてしまった、とryuchellは文章で発表している。そんなryuchellをpecoは受け入れた。共同で発表した文章にpecoは「それはryuchellがほんとうにたくさんの本物の愛をくれたからだと思います」と綴った。二人は変わらず一緒に暮らし、人生のパートナーとして新しい家族のかたちを描いていくという。
より正直に、ありのままに。僕はこれからも生きていく。だから、みんなもそうして。ryuchellはそう語りかけながら、今日も誰かに愛を届けている。(文中敬称略)
(文・中村千晶)
※AERA 2022年9月5日号