ポジティブ思考こそが正義という風潮がある。慎重で用心深い内向的な人は、職場や学校で居づらさを感じることも少なくないだろう。そうしたなかでも、活躍できる内向型の人は何を実践してきたのか。クラスの中で一番おとなしかった子どもだったが、リクルート時代に入社10カ月目にして営業達成率全国トップに立った、サイレントセールストレーナーの渡瀬謙さんに聞いた。AERA 2023年7月17日号の記事を紹介する。
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しゃべらないからこそ売れる「サイレントセールス」という、内向型にもってこいの営業スタイルを伝授する達人がいる。サイレントセールストレーナーの渡瀬謙さん(61)だ。
「内向的な性格を直す必要はありません。なぜなら今は、内向型の営業パーソンに有利な時代だからです」
モノがあふれる一方、経済が低迷して悪質な詐欺が横行し、誰もが「営業」に対する警戒心を強めている。そんな中、話し上手で明るい「昭和の営業マン」タイプが活躍できる時代は終わった、と渡瀬さんは言う。
「かつて活躍した昭和の営業マンたちがいま、企業の上層部に多く在籍していますが、彼らの営業スタイルはもう通用しません。強引に売ることができない、営業っぽく見えない内向型の営業パーソンが信頼を得やすい傾向が強まっています」
渡瀬さんは大学卒業後、精密機器メーカーの営業職に就いた。扱った商品は不良品が多く、クレームが絶えなかった。バブル景気の全盛期。それでも商品は売れた。
「粗悪な商品だと思っているから、お客さんに申し訳なくて売りたくない。それでモヤモヤして、このままこの会社にいたら自分はダメになる、と考えて辞めたんです」(渡瀬さん)
営業のプロ集団で腕試ししようとリクルートに転職。配属先の首都圏の営業部は男女約20人の精鋭部隊。全員が「快活」を絵に描いたようなタイプで、うち約半分が生徒会長経験者だった。渡瀬さんは職場に顔を出した瞬間、「ここじゃなかった」と後悔したという。
「皆さん、お客さんと会うのが楽しくてたまらない、という感じ。私はそういう感覚についていけませんでした」(同)
「クラスの中で一番おとなしい児童、生徒をずっと続けていた感じ」だった、と少年時代を振り返る渡瀬さん。「自然豊かな地域で育ったので山で虫捕りしたり、川で魚を捕まえたり。誰にも見られず1人でいられる時間が好きでした」
リクルートでの仕事は就職情報誌の求人広告の営業。落ちこぼれは渡瀬さんだけ。半年間、売り上げはほぼゼロだった。
「仕事ができないことで逆に目立つ存在になってしまったのが一番の苦痛でした」(同)