■富士山に登る人の半数が発症
急性高山病を発症するのは、標高2500mくらいから。富士山で言えば、6合目を過ぎたあたりだ。標高が上がるにつれ、発症者数は増えていく。齋藤医師は言う。
「標高第2位の北岳(3193m)での発症は多くありませんが、約600m高い富士山では、登山者の半数以上が何らかの急性高山病の症状を感じると言われています」
一方、5合目あたりですでに高山病の症状が出る場合もあるという。
同じ標高でも高山病にかかる人と、かからない人がいるのはなぜなのか。
体には高度に順応しようとする機能が備わっているが、個人差がきわめて大きい。高度順応力が高い人でも、一気に高度を上げたり、オーバーペースなど行程に無理があれば高山病を発症しやすくなる。寝不足や疲れがたまっている、酒を飲みすぎた翌日など体調が悪い場合も危険が増す。富士山頂でご来光を見るために夜間に5合目を出発し、徹夜で一気に山頂を目指す「弾丸登山」は、ハイリスク登山の典型だ。
また、気圧の下がる雨の日は、高山病にもかかりやすくなるのだろうか。
「富士山くらいの高度では、それほど影響はありません。ただ強風や冷たい雨といった荒天は、低体温症などを起こしやすい。体調と天気が悪いときは、思い切って中止を決断することも大事です」(齋藤医師)
■呼吸器や心臓に病気がある人は要注意 発症しやすい体質の人も
齋藤医師に「高山病に、より注意したほうがいい人」を、挙げてもらった。
まず、体質的にかかりやすい人。生まれつき酸素が低い環境に行ったときに呼吸を刺激するサイクルがなかなか起動しない人や、そもそも起動する能力がない人がいて、こうした人は高山病にかかりやすい。
「ただし登ってみなければわかりません。初めて高山に登るときは特に、体がどう反応するか様子を見ながらゆっくり登るようにしてください」
そして、呼吸器や心臓に病気を持っている人や、貧血ぎみな人。酸素の取り込みが悪いので、酸素の薄い高地での滞在は避けるべき、あるいは短時間に抑えるべきとされている。
また、睡眠時無呼吸症候群の人は、高地の山小屋で泊まるのは避けたほうが無難だ。人間は睡眠中に呼吸数が減少するが、睡眠時無呼吸症候群の人は空気の通り道が狭くなっていて、眠っている間に呼吸が止まる状態が繰り返されるため、さらに呼吸数が減って低酸素状態に陥りやすい。いつまでも起きてこないと思ったら呼吸が止まっていた、ということにもなりかねない。