※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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酸素が少ない高地で発症する「高山病」。おおむね2500m以上の高地は高山病の危険があるが、富士山や海外の観光地などは高地だという意識が乏しく、気軽に出かけて高山病にかかる人が少なくない。どのような行動が高山病のリスクを高めてしまうのか、かかりやすいのはどのような人なのか。富士山の山梨県側のルートが7月1日に、静岡県側のルートが7月10日に開山する。高地に向かう前に身につけておきたい基礎知識を、専門家に聞いた。前編「症状とかかりやすい要因」、後編「治療と対策」の2回に分けてお届けする。

【図版】高山病を防ぐのに有効な8つの対策はこちら

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 2018年8月、横浜市に住むAさん(当時59歳)は、大学時代の同級生3人と還暦の記念に富士山(標高3776m)の登山を計画した。昼ごろに吉田口5合目(2305m)を出発。8合目の山小屋(3100m)に1泊し、山頂で日の出を見て下山するという行程だ。全員本格的な登山の経験はなく、富士山に登るのは初めてだったという。

 当日、吉田口は快晴で風も穏やかな絶好の登山日和。Aさんは7合目までは順調に登っていたが、3000mを過ぎたあたりから軽い頭痛を感じるようになり、一気に足どりが重くなった。周期的に襲ってくる頭痛をがまんしながら先を急ぎ、宿泊先の山小屋に到着。「眠れば頭痛も良くなるだろう」と、午後7時、早々に大部屋の寝袋の中で横になった。しかしいつもなら活動している時間に寝つけるはずもなく、周囲のおしゃべりやスマホの操作音なども気になって熟睡できなかった。

 翌午前1時、頭がズーンと重いまま、山頂に向けて出発。友人たちに心配をかけたくない一心でがまんして30分ほど歩いたが、めまいと頭痛がひどく、吐き気も加わってとうとう倒れこんでしまった。友人に支えられ、8合目に戻って救護所で医師に診てもらったところ、「急性高山病」と診断された。Aさんは当時をこう振り返る。

「頭痛や吐き気は高山病の症状だったんだと、初めて気づきました」

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酸素量は標高3000mで平地の約3分の2に減少