「やっぱり子どもは産まないでいい」
パートナーと二人一緒に過ごすので十分という結論に至った。その後、凍結していた卵子を廃棄する手続きをした。
「卵子を凍結したときも、廃棄したときも、素直に自分の心に向き合った結果の選択だから、悔いはありません。もし30代で今のパートナーと出会っていたら、産みたいという気持ちが強かったと思う。子どもを持ちたいかどうかは、その時々のタイミングで選択が変わってくることを実感しました。今の私には“これから産んで、育てていく”ということが、どうしても考えにくかった。でもやっぱり、もし来世があったら、その時は産んでみたいかな」
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凍結して保管している卵子を融解して“使う”タイミングというのは、子どもを迎える環境が整い、準備ができたとき——―。だが実際に卵子凍結をしても、結局は保管している卵子を使わないままになるケースが多い傾向が見られるという。
例えば、順天堂大医学部付属浦安病院(千葉県浦安市)での臨床研究の事例。同病院では、浦安市の助成を受け、2015年から3年間、市内に住む20~34歳の女性を対象に、卵子凍結の臨床研究を行った。対象者の自己負担は、排卵誘発にかかる部分のみとする補助事業だ。3年間で合計34人が卵子を凍結したが、これまでに凍結した卵子を使ったのは2人で、出産に至ったのは1人だという。
「また、欧米で行われたある調査によれば、卵子凍結した人の中で、15年後に子どもがいる人の割合は20%。うち半分が凍結卵子を使用せず、妊娠を計画した時点での自分の卵子で妊娠しており、凍結卵子を使って子どもが産まれた割合は5.2~7%という結果でした。」
こう話すのは、東邦大学医療センター大森病院産婦人科の片桐由起子教授。卵子凍結の技術には、「高齢出産を増やし、晩産化を社会でますます加速させるのでは」といった懸念の声も聞かれる。「卵子を凍結したから安心」というものではなく、本当に出産を望むなら、それなりの計画性も必要になってくる。
「実際に凍結した卵子をいつ使おうと思うのか、ある程度イメージすることも大切。例えばキャリアを優先してきた人が責任ある立場になったときに、子どもを持つことを選べるかどうか。妊娠や出産がゴールではなく、そこから始まる子育ても含めて計画してほしいと思います」(片桐教授)