写真はイメージです(GettyImages)
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 当事者の話を聞くと、現時点で妊娠・出産より優先したい何かがあって“あえて”卵子凍結をしているというものではなかった。例えばパートナーがいないなど、「産めない」今の状況がいったいいつまで続くのか、自分でも読めないから、少しでも将来に可能性を残しておきたいからという傾向が強いように感じた。

 20代から日々仕事に向き合い、「キャリアを優先してきた」つもりはなくても、ふと気がついたら出産適齢期と言われる年齢を超えていた、そんな女性は決して少なくないだろう。今、37歳の筆者も、そのうちの一人だ。卵子の老化や不妊について、メディアなどでも活発に取り上げられ、不安を煽られる心理はよく分かる。なかなか周囲に本音を話しづらい話題で、内なる葛藤を抱えがちなテーマであることも。今回の取材でも、「卵子凍結は“孤独な闘い”だから、話して楽になった」という声があった。「近い人にこそ話せないテーマ」なのかもしれない。

 卵子凍結をめぐる現状について、専門家の視点からは厳しい意見も多かった。技術や制度の面でも課題が多く、卵子を凍結したからといって必ず妊娠できるわけではない。ただ、リスクをしっかり理解したうえでなら、選択するのは個人の自由だと思う。

 卵子凍結という技術は、産み時に悩む現代の女性に何をもたらすのか。第一の目的は、将来の妊娠・出産の可能性を残すこと。実際は、心のお守りがあることで不安からの一時的な解放感かもしれないし、今やれることはやったという達成感かもしれない。何より今回取材した当事者は、今の自分の体と真剣に向き合い、突き詰めてこれからの人生を考えていた。その過程にこそ、この技術を選択した意味があるのかもしれない。

(松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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