写真はイメージです(GettyImages)
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 東京都は今年、健康な女性が卵子凍結する際の費用を助成する方針を固め、来年度の本格実施を検討している。少子化対策の一環として、未婚の女性が将来の妊娠・出産の可能性を残すための後押しとしている。だが、専門家の間では効果を疑問視する声も多い。

「諸外国の調査結果などを見ても、凍結した卵子を使って妊娠までに至る例が少ないし、あくまで個人の保険という意味合いが強い。それに税金を投入することには、少なからず疑問を感じています。少子化対策になる出生数につながるのかどうか……」(片桐教授)

◆ビジネスの側面もある 情報提供は中立的か

 生殖医療の一つである卵子凍結は、クリニックが自由に料金設定できる自由診療だ。ビジネスという側面もあるだろう。現状、関連する法律や制度などがなく、どこまで技術の質が担保されているかどうか、医療を受ける利用者には分かりにくい。

 生命倫理政策を研究する東京大学医科学研究所の神里彩子准教授は言う。

「生殖補助医療について法律などで規制をしている国は多くありますが、日本では残念ながら公的な規制は手つかずの状態です。こうした状況の中で、行政が助成金を出すとなれば、ビジネスとして新規参入を考えるところが次々に出てきてもおかしくはない。今でも、卵子凍結や体外受精は経営の観点では収益につながるサービスであり、それを受ける側に中立的な情報提供がなされているか疑問です」

 加齢によって卵巣機能が低下し、一定の年齢を過ぎると妊娠・出産が難しくなるのは避けられない現実だ。一方で、不妊治療を受けている患者の多くが、卵巣機能や卵子の質という意味で「出産適齢期」を過ぎた年齢という実態がある。そうした中で健康な女性の卵子凍結は、日本産科婦人科学会の専門委員会をはじめ専門家たちは「推奨しない」という見解を示す。だが、実際は多くのクリニックが技術の提供に乗り出し、利用者も広まっている。

 生殖工学博士の香川則子さん(プリンセスバンク代表)は、利用者側の視点で説明する。

「子どもが欲しいのに何らかの理由でそれがかなわず、大きな焦りを感じている人や、40歳を超えても妊活しそうという人などは、ひとまず卵子を凍結して時間を止めることが“お守り”代わりになる場合もあります。また最近は、2人目、3人目の子どもを産むための“保険”としての目的なども増えてきました」

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