1枚も撮らない日はない
現地での撮影はどのような流れで進んだのか?
「いつもと同じように淡々と撮っただけですよ。ぼくはいかなる写真も作品になりうると思って日々写真を撮っている。1枚も撮らない日はありません。例えば、朝起きたら家の窓から風景を撮るし、食べたものも撮る。街中のスナップも膨大に撮っています。それをずっと続けていくなかで、撮影した写真の一部が結果的に作品集になる。だから、『Stuttgart』についても、現地で撮っているときは作品集にしようとか、作品集になるかもしれない、ということは考えずに撮っていた」
旅行中は母親だけでなく、ドイツの風景や弟の家族にもカメラを向けた。
「まあ、母親と2人きりで撮ろうかっていうタイミングは何回かあったんですが、体が不自由なので2人っきりで撮るといっても、ほかの誰かが母親をケアしなければならない。それでも、車いすに座ってひとりぼっちみたいに見える姿をすごい引きで、『面白いな』って、遊んで撮るような感覚で撮ったりした。そういう撮り方ができたのはドイツ旅行だったから、というのはありましたね」
裸も「あら、いいわよ」
写真集には裸のシーンもある。
「母親を撮る、ということは、きちんとリウマチの体とも向き合って撮ることなので、裸も撮らないと、という気持ちがありました。でも、ものすごい決意があったかというと、実はあまりなくて。向こうに着いて2日目ぐらいに久子さんがシャワーを浴びるとき、『シャワーを浴びるなら、俺、撮るわ』と、言って写したんですけれど、向こうは、『あらいいわよ』みたいな。もう本当にそのくらいの感覚だった。それがうちの母親の人間性っていうか。それが結構大きかったと思います」
今回の受賞理由には、「作家が新境地を切り開いた作品に対して」とある。笠井さんはどう感じているのか?
「ぼく自身は新境地に達したっていう認識で『Stuttgart』を出したわけではありません。でも、確かに今までとかなり違うものができたなっていう感触はあります。身内を題材にしているという意味でもそれまでの写真集とは違いますし。これまでぼくの作品を見てきた人も、あっ、こういう写真集も出す人なんだって、思ったのではないでしょうか」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
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