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1951年生まれの山崎茂さんは20代のころスナップ写真の撮影に没頭した。
山崎さんの写真集『Weekend』(蒼穹舎)の表紙には古い木造住宅を背景に路地裏で遊ぶ子どもたちの姿が生き生きと写っている。
「これは『アサヒカメラ』で1位になった写真です。要するに月例コンテストに応募していたときの写真ですよ」
当時の選評にはこう書かれている。
<日曜日、場所は東京・向島の裏町。狭い道をはさんで建ち並ぶ家々とその暮らしのようすを、いかにもよく物語っているスナップ写真である>(「アサヒカメラ」75年10月号)
■人の営みは変わらない
「ネガのメモを見ると昭和48(1973)年ごろから下町を撮り始めている。2年くらい一生懸命に撮影して、撮りためた写真をアサカメに応募した。それで75年の年度賞とった」
写真集は2部構成で、前半は高度経済成長期直後の74年から77年にかけて、後半は2015年から20年ごろに撮影されたもの。
「昔の街はたばこだらけでね、汚かったのよく覚えているよ。時代が変わって建物なんかはどんどん奇麗になったけれど、人の営みは大きくは変わっていない。おそらくそれはどこの国も同じでしょう」
昔、山崎さんは日本光学工業(現・ニコン)に勤めていた。一時期、最高級一眼レフ、ニコンF2の組み立てにも携わったが、「仕事と写真は全く関係ない」と言う。
休日になると横浜市鶴見区の自宅から東京や横浜の街を訪れ、日常的な人々の表情や動きを撮り歩いた。
写真集のページをめくると、祭りの準備だろうか、街なかにみこしが置かれ、若者が集まっている。
「これは新宿です。あの時代、駅からそれほど離れていない場所でまだこんなことをやっていた」
運河の船だまりでは朽ち果てた木造船を前に人々が釣り糸を垂れている。
「船がいっぱいある、横浜の石川町です。この風景はもうなくなりましたね。背景の建物も全部なくなって、奇麗になっちゃった」