■鬼にだけ向かう「制御できない怒り」

 無一郎の「悪意」と「怒り」は、強烈なかたちで鬼にだけ向かう。刀鍛冶の里編の重要キーワードは、「制御できない怒り」だ。玉壺に向かって告げた「お前はもう二度と生まれて来なくていいからね」という無一郎の言葉は、『鬼滅の刃』のセリフの中では、最上級の厳しい言葉だ。

 時透無一郎の心と感情は、あの11歳の夏に鬼によって踏みにじられ、“殺された”。鬼に向かって暴言をぶつけてしまう無一郎は、「霞柱」になる以前の子どもの時のままだ。記憶を取り戻した無一郎から、幼い「悪口」がとめどなく紡ぎ出されてしまうことを、誰も止めることなどできないだろう。

 無一郎は、鬼を決して許さず、自分を鼓舞し、自分の弱さをすべて断ち切る。若すぎる少年剣士は、「霞柱・時透無一郎」として、さらに過酷な鬼殺の道を突き進む。今後の戦いはより一層厳しいものになるが、この戦いの後に、記憶を取り戻した無一郎には大切な仲間ができる。

 仲間思いの無一郎が一体何を成し遂げるのか。今後の彼の成長も楽しみでならない。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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