23年度からは教員が特異な才能がある子どもについて理解を深めるための研修ツールの開発や実証研究をする学校の募集などが始まっている。
実は日本でも第2次世界大戦末期に優秀な子どもたちを選抜し、戦争に勝つための英才教育を施していた。だが戦後まもなく「戦後の国内事情の著しい変化により、制度化して行うことは適当ではない」として、制度は打ち切られた。国が主導する英才教育はそこで途絶えた。
■子どもを選抜して、特別なプログラムを実施する国も
一方、海外では積極的にギフテッド教育を進める国もある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査研究によると、1950年代後半から本格的にギフテッド教育をスタートさせたアメリカをはじめ、イギリスやドイツ、中国、韓国など海外ではIQや知能検査で選抜した子どもたちの才能を伸ばす特別なプログラムを実施している。
アメリカが国として取り組みを始めたきっかけとなったのが、旧ソ連に人工衛星「スプートニク」の打ち上げを先行された「スプートニク・ショック」だったと言われている。旧ソ連との覇権争いに勝つため、才能のある子どもたちを選抜して早期の教育や科学に特化した特別のプログラムを与える教育を行ってきた。
他の国では80~90年代にギフテッド教育を始めたケースが多い。日本では詰め込み教育の反省から「ゆとり教育」が導入されていた時期だ。各国が行う才能教育の目的は、二つの傾向に大別できる。一つは、国の発展に重きを置いた「国家中心」の教育、もう一つは、子ども本人の学びを目的とした「学習者中心」の教育だ。
中国や韓国、シンガポールでは国家が主導して人材育成や科学技術の振興を行っている傾向が見てとれる。一方で、フィンランドでは90年代、才能があるために学校で不適応を起こしていたり、才能に合った高度な教育を求めたりする子どもたちがいることから、個々の能力に応じて学習内容を合わせる教育が進められた。学校では、同じクラスで、才能に応じて教員とマンツーマンだったり、教える内容を変えたりするなど、現場の教員たちの工夫によって、インクルーシブな教育が実践されてきているという。
日本国内では、特異な才能を持つ人たちへの支援がどのように本格化するかはまだ議論の途上にある。ただ、今まさに困っているギフテッドたちがいて、支援を待っているのも事実だ。特異な才能が認められ、同時に併せ持つ個性が理解される。そんな環境があってこそ、ギフテッドたちの才能がいかんなく発揮されるのではないか。(朝日新聞社・阿部朋美、伊藤和行)
※AERA 2023年5月29日号より抜粋