乳酸菌が注目される背景には、間違いなく健康に対しての意識が高まっていることがあるだろう。日本有数の健康寿命で知られる長野県には、味噌、醤油、漬物など豊かな発酵食文化が根付いている。

■木樽に特有の乳酸菌

 信州大学農学部の下里剛士教授は、この地の利を活かし、乳酸菌の研究を行っている。主要な内容の一つが「乳酸菌を“鍛え”“育てる”こと」だ。

「乳酸菌に関する論文で最近指摘されているのが、個人差や個体差です。ある乳酸菌の商品が、自分には合っているが、ほかの人には効果がないということは起こりえます。私の研究室では、すでに見いだされている乳酸菌を過酷な環境で培養し、たとえば腸内への定着性を高めるなど、プラスアルファの効果を持つよう育種しています。作物の品種改良と同様のことを、バクテリアレベルで行っているのです」(下里教授)

 下里教授は「まだ見ぬ乳酸菌の発見」にも力を入れている。長野には歴史ある醸造蔵がいくつもある。そういった蔵で代々受け継がれてきた木樽に特有の乳酸菌が棲みついており、中には非常に機能が優れた“スーパー乳酸菌”が見つかることもあるのだという。

 乳酸菌の可能性は、これから先、さらに広がっていく。

■「プラズマ乳酸菌」の最新研究、新型コロナの症状を緩和

 この対象は、長崎市内の7病院で「コロナ軽症」と診断され、宿泊療養所へ滞在、その後自宅療養となった100人(20歳以上65歳未満男女)。50人にプラズマ乳酸菌4千億個を含むカプセルを、50人にプラセボ(偽薬)を無作為に投与、14日間の様子を比較した(最終的な対象はプラズマ乳酸菌群50人、プラセボ群46人)ところ、味覚・嗅覚障害の消失、ウイルス量減少、pDC維持について、プラズマ乳酸菌が有意に優っていた。

「プラズマ乳酸菌群では9日目以降に嗅覚、味覚障害点が改善し、4日目でウイルス量が減少しました。また、新型コロナ感染症の経過中、プラセボ群ではpDCが減少しましたが、プラズマ乳酸菌群では維持されていました」(山本医師)

 ただし、自覚症状全体の総合点についてはプラセボ群との差は認められなかった。これは、研究計画時の流行はデルタ株だったが、実施時はオミクロン株であり、主な自覚症状の種類が設定した症状に含まれなかったことが関係したとも考えられる。

「プラズマ乳酸菌を摂取すれば、pDCが維持され、ウイルスが早期に排出されて、味覚や嗅覚障害の改善につながる可能性があります」(山本医師)

(ライター・羽根田真智)

AERA 2023年5月22日号より抜粋

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