とはいえ、身体機能や予備力が低下するスピードは個人差が大きい。普段から健康管理に気をつけ鍛錬を怠らない人は80歳を超えるまで相当な体力を維持することができるが、逆に不摂生をしていれば低下のスピードは加速する。齋藤医師はこう話す。

「中高年になって登山を始めた人によくあるのは、若いころはスポーツもやっていたからと体力を過信し、初回から勢いよく登ってバテてしまうケース。心臓に過度の負担がかかって心筋梗塞(こうそく)を起こす人もいます。若いときのイメージだけを記憶していて、それ以降はろくに運動もせずに不摂生していたことも、年を取ったことも、頭の中からすっかり抜け落ちているんですね」

■自分の体を知ることから

 ただし登山が中高年に向いていないわけではない。齋藤医師は、むしろ中高年が生涯健康を維持する上で最適な運動だと説明する。

「登山は瞬発的な筋力に依存した動きはほとんどない持久系の運動です。内臓脂肪などを効率よく燃焼させるので、糖尿病などの生活習慣病の発症を予防し、進行を抑えてくれるんですね。また上ることで心肺機能が鍛えられ、下ることで関節と筋力が鍛えられます。さらに森林浴を楽しみながら体を動かすことで、心も体もリラックスできる。『危ないから行くな』ではなく、できるだけ危険を回避するように準備をすればいいのです」

 まずは自分の体の状態を知ること。手っ取り早く自分の状態を知る指標になるのが、「最大心拍数」だ。最大心拍数とは、最大限のストレス状況に置かれたときの心拍数(1分間に心臓が拍動する回数)の最高値のこと。心臓のパワーを示す値で、通常は加齢とともに下がっていき、「220-自分の年齢」で年齢相当のおおまかな最大心拍数を算出できる。

「心疾患などで激しい運動を禁止されていない人は、階段上りやスポーツジムの自転車こぎなどで『もうこれ以上頑張れない』というところまで運動してみて、その時点の心拍数を測ってみましょう。指を手首に当てて測ることもできますし、今はアップルウオッチのような簡単に心拍数を測れるものもあります。たとえば60歳の人なら年齢相応の最大心拍数は、220-60で160。実際に測ってみて140だったら80歳相当まで心肺機能が落ちているということになります」(齋藤医師)

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