健康を維持するための運動の一つとして登山をする中高年は多い。しかし、自力で下山できなくなって救助要請をするのが多いのも年齢を重ねた人たちだ。日本山岳会群馬支部が主催する「健康登山塾」で塾長をつとめる齋藤繁医師に、中高年が登山で気をつけるべき点などを聞いた。
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■道迷いやわずかな段差で転倒
警察庁が発表した「令和3年における山岳遭難の概況」によると、救助要請のあった遭難者3075人のうち8割は40歳以上。全体の半数を60歳以上が占めている。遭難の原因は道迷いが最も多く(41.5%)、次いで転倒(16.6%)、滑落(16.1%)だった。日本山岳会群馬支部が主催する「健康登山塾」で塾長をつとめる齋藤繁医師(群馬大学医学部附属病院・病院長)はこう説明する。
「かつて山岳遭難と言えば、岩場からの転落、急峻(きゅうしゅん)な雪渓での滑落、雪崩など、ルートの難しさや気象要因によるものがほとんどでした。しかし近年はちょっとした判断ミスから道に迷って歩き回り、体力を使い果たしたり、転落や転倒もいわゆる岩場ルートではなく、縦走路のわずかな段差や階段などでの捻挫、骨折などが多いと言われています。比較的軽症でも自力で下山できなくなるケースが少なくありません」
■年を取るにつれ「余裕」がなくなる
齋藤医師は、「中高年の遭難は『予備力の低下』によるところが大きい」と指摘する。予備力とは、普段生活している分にはそれほど必要ないけれど、厳しい状況に陥ったときに頑張れる力のこと。いわば「余裕」の部分で、人間の各臓器にはもともとこうした予備力が備わっている。しかし身体機能が20代前半をピークにだんだん低下するにつれ、予備力も下がっていく。つまり急な雨で道が悪くなった、道に迷って少し急がなければならなくなった、足が痛いなど不測の事態に陥ったときに対処する力が年齢とともに弱まり、少し状況が悪くなっただけで身体的に耐えられなくなるのだ。