居酒屋をめぐって47都道府県を踏破した太田和彦氏が、居酒屋を通して県民性やその土地の魅力にせまった『居酒屋と県民性』(朝日文庫)から、大阪の居酒屋と県民性について、一部抜粋・再編してお届けする。太田さん推薦の居酒屋も必見だ。
* * *
【大阪】ルネッサンスがおきた大阪居酒屋
日本で最もポピュラーな県民性は大阪だろう。
見栄を張らずに本音で生きる。「がめつい」と言われようが儲(もう)けてナンボ。ボケとツッコミ、理屈より笑い。のらりくらりした大阪弁は脱力感も説得力もある。
東京人「それでよろしいか」
大阪人「そな白黒つけたらあきまへんがな、まあええでっしゃろ、ここはあんたの顔もたてなあかんさかい、ええようにしといてや、ほなさいなら」
これでは勝負にならない。
また大阪は「天下の台所」として日本中から食材が集まり、「関西割烹」は日本料理の頂点となった。その基礎は北前船が大阪に運んだ北海道昆布による出汁(だし)で「有名割烹○○で修業した」は料理人の何よりの勲章だ。<包丁一本、晒(さら)しに巻いて~>大阪の料理人をうたった「月の法善寺横丁」は大阪ならではで、他の地でこういう歌はできそうもない。
厳しい商売道をつらぬく奉公の世界は「どケチ」と言われようとも、鯖(さば)のアラの<船場汁>のように、普通は捨ててしまうような食材を巧みに使い切る「始末のよい」料理も生んだ。反面、本当においしいものには「これは値打ちがある」と金を惜しまない。お金の使い方を知っているのだろう。それやこれやで大阪は「食いだおれ」の地となった。
ではその地の居酒屋はどうか。
およそ20年も前、東京の居酒屋のあらましは見えた私は、大阪はどうだろうと何度か出かけ、意外な印象を持った。それは「安かろう面白かろう」の「ウケ狙い」の肴と、灘大手三増酒のまずい酒で「安く酔えればそれでよい」。そういう店ばかり入ったのだろうと言われればそうかもしれないが、串揚げやタコ焼を大切にするのがわからない。