「動脈血酸素飽和度の数値は標高を上げていくとみるみる下がって、たとえば富士山の山頂ではコロナの重症肺炎患者並みの数値になります。その数値から高山病の危険を察知して口すぼめ呼吸(酸素を多く取り込むための呼吸。息を大きく吸い口笛を吹くように口をすぼめて吐き出す)をしたり、標高を下げたりすれば数値は回復し、対策の効果を実感できる。上手に対策をとれるようになります」
■もしものときのために、エスケープルートの確保を
登山における病気やけがを防ぐには、「ふだんから運動して体力をつける」「持病のチェックやコントロールを徹底する」「前日はしっかり眠る」「登山中はこまめに水分やエネルギーを補給する」といった基本的な体調管理は不可欠だ。
また、山で緊急を要する体調不良に見舞われた場合、すぐに救急車は来てくれない。齋藤医師は「事前にエスケープルートを確認しておいてほしい」と話す。エスケープルートとは、体調の悪化や天候不良など何らかのトラブルが発生したときに、当初の予定を変更して最短距離で下山する退避路のこと。
「たとえば来た道を折り返すよりも早く車道におりられるエスケープルートが事前にわかっていれば、より短い時間で病院にたどり着くことができる。持病があるなど健康に不安がある人ほど、より多くのエスケープルートを確保できる山を選べば安心です」
■「条件が悪くても強行」を防ぐコツとは
体調や天候の悪化に気づいていながら計画を強行してしまうことも、登山中の病気やケガの一因になっている。
「中止するとなると、『頂上まであと少しなのに』『せっかく休みを取ったのに』とガッカリしてしまいますよね。無理して突っ込んでしまう気持ちはよくわかります」
と齋藤医師。中止を決断しやすくするための工夫を二つ教えてくれた。
まず一つは、花や景色の写真を撮る、石碑を見て回るといった「趣味の要素」を登山の目的に加えること。山頂への往復以外の目的があると、「今日は山頂には行けなかったけれど、この花を見たから来たかいはあった」などと、別次元の満足感が得られる。