月経痛が軽い場合は鎮痛剤や漢方薬による対症療法でもよいが、これらは子宮内膜症の発症を防ぐことはできず、強い痛みを抑えるのが難しい。その場合はホルモン剤を使った薬物療法が有効だ。
■ピルはもともと子宮内膜症治療薬
薬物療法について、東京大学病院女性外科准教授の甲賀かをり医師はこう述べる。
「薬の処方には基本的な優先順位はあるものの、合併している疾患や副作用の度合い、体質などに応じて選択する必要があります。患者さんごとにそれぞれ異なるため、調整が難しいのですが、近年、薬の選択肢が増えたことにより患者さんのバックグラウンドに応じての使い分けができるようになってきました」
最も一般的な薬は低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP製剤)、いわゆる低用量ピルだ。保険適用の低用量ピルは現在8種類ある。
「日本でピルは避妊薬というイメージのほうが強く、まだまだ偏見があります。しかし、ピルはもともと子宮内膜症の治療のために作られた薬で排卵を休憩し、子宮内膜が厚くなるのを抑え月経痛を改善します」(深沢医師)
低用量ピルは月経痛、子宮内膜症への効果以外にも、卵巣がん、子宮体がんのリスクを下げるといわれる。
ただし、非常にまれな合併症として血栓症を起こす場合があり、血栓症の既往がある人、喫煙者、肥満の人などには使いにくいという面もある。
ジエノゲストはプロゲスチン(黄体ホルモン)の薬だ。排卵の抑制と子宮内膜症細胞の増殖を抑えることで子宮内膜症に効果を示し、月経痛以外の痛みも抑えられる。ただし不正出血の副作用が起こる頻度が比較的高いため、十分な経過観察が必要だ。
同じく黄体ホルモンを投与する方法にLNG−IUS(レボノルゲストレル放出子宮内システム)がある。子宮の中に器具を挿入し、その器具から持続的に黄体ホルモンを放出する治療法だ。子宮内膜症を縮小させ、月経痛を緩和させるほか、子宮内膜を薄くし、過多月経にも効果がある。服薬の必要がないため飲み忘れの心配などなく、最大で5年間効果が続く。ただし、子宮内のみへの作用で、卵巣には機能せず排卵は抑えられない。そのため排卵の刺激で大きくなるチョコレート嚢胞には治療効果は低い。