そこから、中学受験の“沼”にはまった。息子は受験勉強には順応できた。偏差値35からのスタートだったが、半年で偏差値50まで上がった。5年の9月からは難関受験に頭角を現している新興塾に転塾し、勉強三昧の日々が始まった。

「でも、まだ動画やゲームなどをやっているんですよ。他のライバルは小1から塾に通っているので、4年以上の差がある。5年の5月には、打ち込んでいたサッカーもやめさせました。私は息子のためを思い、心を鬼にしたんです。憎まれてもいいから、息子にはいい将来を与えてやりたかった」

 信雄さんは必死だった。仕事をしながら息子の生活と勉強を管理。部下を管理するPDCAサイクルの考え方を息子の管理に持ち込んだ。そして、空き時間に塾の教材を研究。塾の授業の復習と予習の時間を確保するために、息子のスケジュールを作った。隙あらばタブレットとゲーム機に手を伸ばす息子に手をあげたことも何度もあるという。

「私が管理しないと手を抜くので、出張はできるだけ避けていました。当時はコロナ前だったので、みな終電近くまで働いていた。私は息子が塾から帰って来る21時30分に家に戻り、2時間程度勉強を教え、会社に戻るという生活をしていました」

※【後編】<公立出身の父親がはまった「中学受験沼」の末路 息子は不登校&退学になり妻との関係も冷め切った>に続く

●沢木文(さわき あや)
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。