少しでも疑問に思ったら質問を重ね、すべて納得した上で次にやるべきは、子ども自身に体験授業を受けさせること。
「扉が開いた瞬間に、その塾の雰囲気がわかるはずです。どう迎え入れてくれるか、子どもに目線を合わせてくれているか、そういった子どもへの接し方一つひとつに塾の指導方針が表れますから、よく見てください。通いたい塾か通いたくない塾か、子どもが敏感に感じ取る相性も大切な選択基準です」
そして、「この塾と決めたなら、浮気をしないことです」と強調する。その理由は、これまで問題を抱える家庭をいくつも見てきたからだ。 成績の伸び悩みに対して、転塾は一つの選択肢ではある。ただ、転塾を繰り返す多くの家庭は、塾の知名度だけしか見ずに「ここがダメならあっちへ」と一方的に見切りをつけて辞めてしまうという。何がその子にとって課題なのかを明らかにしないまま、塾名に引かれるまま環境だけを変える。その結果、転塾先でも悩みは解消されず、さらに転塾を繰り返すことになる。これでは当の子どもが落ち着いて受験勉強に取り組めなくなってしまう。
「塾は指導するサポーターであり、受験の悩みに共に立ち向かうパートナーでもあります。何か疑問を感じたり気になったりすることがあれば、まずは講師に相談することです。そこで解決できることがあるかもしれません」(同)
とくに、「5年生後半や6年生での転塾は避けたほうがいい」と吉田氏は言う。模試判定に焦って決断を急いでしまう保護者もいるが、わが子が塾と積み重ねてきた「時間」を考えてほしいという。
受験生は、自分のために力を尽くしてくれた人たちの思いも味方につけて、受験会場に向かう。受験とは区切られた人生の一コマではない。積み重ねていく時間の延長上にある。講師が常に声を掛けてくれ、自分のことをいかに熱心に見て一緒に頑張ってくれていたかという時間の積み重ねが、受験生にとって大きな「支え」になり、自信になる。受験前日や当日、長い時間を共有してきた塾講師からの励ましは、何より子どもの背中を押してくれる。最後の踏ん張りは、この「支え」があるかないかで変わってくる。それは、長年指導してきた吉田氏の実感だ。5~6年生で転塾した場合、試験会場で最も支えとなる「時間の積み重ね」という強みを生かすことはできない。