同じことが、家庭と塾との間にも言える。数年間かけて築き上げた信頼関係がある家庭だからこそ、塾側は踏み込んだ進路指導ができる側面もあるという。
難関校を視野に入れるほど、この偏差値であればあの学校を受けるべきだ、という“呪縛”に捉われてしまうことも多い。実績を追求する塾によっては、偏差値や模試結果で第1志望校を誘導することもあるという。子どもの希望や特性、家庭の考えが置き去りにされれば、それは本当の第1志望校ではない。受験前に息切れしてしまうことにもなりかねない。
塾講師にはいろいろな能力が必要だが、吉田氏は、その一つとして「易者」であれと言う。日々向き合う子どもの様子から、子どもが伸びる学校を断言できるか。そして、綿密な分析のもと確かな合格に導く決断ができるか。保護者の信頼があればそれが生きてくる。
吉田氏にはこんな経験がある。「馬渕教室」の東海エリアで指導をしていた時、医学部進学で圧倒的な人気を誇る愛知の名門私立・東海中学を第1志望とする生徒がいた。国語は圧倒的に得意な一方、算数は致命的に弱かった。そこで、吉田氏は勝負に出た。同校は4教科400点満点の均等配点で、合計240点をとれば合格ラインとされる。ならば、苦手な算数は基本レベルの大問3の(1)まで完答を目指し、それ以降の問題は一切手をつけなくてよし。受からせたいなら、その覚悟はあるか、と両親に迫った。子どもの特質を見抜き、両親との信頼関係があったからこそ、合格を勝ち得た例だという。
第1志望校合格への戦いは熾烈だ。だからこそ、志望校選びに労を惜しまず、確かな合格へと導く塾講師の存在は大きい。吉田氏が率いる「進学館ルータス」では、塾生と保護者それぞれに年に数回の面談の機会を設け、悩みを解消するとともに、低学年のうちから志望校をじっくりと決めていく方針だという。
「どの塾もカリキュラム自体はそう変わりません。相性のよい塾で信頼できる講師に出会うことが大切です」(同)。
実質的に、子ども自身が塾を選ぶことは容易ではない。塾選びは、親しかできない最初のサポートであることは間違いないだろう。
(AERA dot.編集部・市川綾子)
※次回は、低学年からの塾通いの是非について紹介します。