クリオスのミッションは不妊カップルや子供を持ちたい女性同士のカップルやシングルの人を助けることであるとスコウは言う。「法律で禁じられていても抜け道を見つけます。その人の人生における最大の夢を実現するのを助けるためです。国によって法律は異なりますが、常にその国の議員たちと交渉や議論をしています。精子バンクを違法にしてしまうと、どうしても子供がほしい人は、いわゆるグレーマーケットに頼らざるを得ません。そうなると、何の検査もしない、何の保証もない出自不明の精子を使うので、感染症や遺伝病のリスクが大きく、非常に危険です」
最近はSNSで精子提供をしている人が増えているが、それも一種のグレーマーケットである。クリオスの場合、遺伝病や感染病の厳格な検査を合格した精子しか使わない。「ネットで精子提供と検索すると何千もの男性が見つかりますが、中にはセックス目的で精子提供をする人もいます。男性が原因でカップルに子供ができない場合、夫がそれを受け入れるのは非常に辛い」
オーストラリアのヴィクトリア州の法律では匿名で精子提供した人も追跡可能となり、提供精子で生まれた子が提供者に連絡してくる可能性も出てきた。これについてスコウはこう言う。「この法律の最大の問題は、すべての場合に適用したことです。もしあなたが医者に匿名を約束されて、精子提供したはずなのに、その精子から生まれた子から連絡があったらどう思いますか? あまねく法律を適用することは間違いです。提供者の匿名問題の解決法について、私は30年以上研究し、各地で講演もしてきました。クリオスがあるデンマークでは1953年にこの問題が提起され、継続的に議論されてきました。そして私は一つの結論に達したのです。この問題を解決する方法は一つしかありません。それは、『匿名提供』と『非匿名提供』の2種類のドナーを持つことです。クリオスもそうしています」
「非匿名提供、つまり自分が提供者であることを明かす場合、自分のID(自己確認書)を開示することで、その精子から生まれた子はドナーが生物学的にどのような人物であるかの情報を得られます。これは子供にとって重要です。匿名提供をやめた国はオーストラリア、ニュージーランドのように12カ国ありますが、最初にやめたのはスウェーデンで1985年です。長いプロセスを経て匿名提供をやめました。しかし、問題は匿名提供ができなくなるとドナーは減ります。私は市場経済学者でもあるので、その点から見ると、需要が大きいときに供給を減らすと何が起きるか断言できます。先ほど述べたように、人々は治療を求めて国外に行くか、怪しげなグレーマーケットに頼るかそのどちらかしか選択肢はないのです」