小川:こういう脳の動きはね、小説を書いているときでも起こるんですよ。
杉江:面白い、そこ聞きたいですね。
■物語の進みたい方向に抗わずに書いた
小川:物語ってすごく重力があって……強烈にある方向へ進めようとしてくる時というのが多々あるんです。自分でも意識しない間に、重力にひっぱられて進んでいるってことがよくあって。後から読み直してみてその物語の構造をやっと自分で理解する、みたいな。人間の内部にインプットされている、物語の進みたがっている方向みたいなものを後から感じるんです。
大抵、そういう先走る時は小説としてはダメです。でも『君のクイズ』は、僕は抗わずに、この話が進みたがっている方向に沿って書いたんです。他の長い小説を書くときは、小説がどこかの方向に進みたがると1回眺める。「本当にそれでいいのか?」みたいなね。自分の中で1回引き受けて、その上で物語の進む方向に従ったり、あるいは従わなかったりするんですけれど(笑い)。『君のクイズ』は、ラストだけですね、自分で色々と考えたのは。
杉江:重力によって光が曲がるようなものですね。短編の書き方と長編の書き方が違うというのも興味深いです。
小川:僕は、書いてしまったものに対してずっと質問し続けるって感じです。「お前どこまで行けるか?」「お前は何かできるか?」みたいな。で「こう行きます」って言われたら、「じゃあ、お前行くか」と(笑い)。自分が書いた原稿と常に語り、聞きながら進めている感じですね。で、遠くに行けるんじゃないかって進んで行ったら全然道がなかったとか、袋小路だったりとかするけど(笑い)。長編を書くときは、そんなイメージです。
杉江:『君のクイズ』は長めの中編ですが、この本はそうではない書き方をした、と。
小川:この本は1回潜ったら、そのまま一息で最後まで完走したって感じです。最初のシチュエーションの「ゼロ文字押し(一文字も問題が読まれぬまま回答ボタンを押す)」も、どういう風に解かれるかっていうのは、僕自身がわかっていなくて。だから三島と一緒に僕もずっと考えていました。
杉江:ロジックは、事前にちゃんと考えてはいない。でも、書きながらどこかでそのロジックに到達するということですね。クイズの試合をしながら三島ないし本庄のどちらかが答えることによってクイズが生成される、クエスチョンとアンサーが生成されるプロセスみたいなものがあるというのも、どこかで発見したんですね?