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 で、話がようやく戻るんですけど、スポーツは、小説に「翻訳」するのが極めて難しいんです。

杉江:とても難しいと思います。

小川:『江夏の21球』(山際敦司著)という、野球をうまく文章に翻訳した素晴らしい短編ノンフィクションがあります。江夏豊が1球を投げるごとに試合状況が進んでいって、「バッターがその時に何を考えていたか」「江夏が何を考えていたか」というのを都度止めて、見せる。

杉江:ストップモーションの技巧ですね。

小川:僕は、「小説の強さ」って、止められることだと思うんです。だから『君のクイズ』は基本的に、『江夏の21球』なんですよね。クイズというメディアが持つ競技性はとても文字で表現しやすい。問いも文章だし、答えも文章だし。

杉江:なるほど。

小川:1問ごとにストップをかける。それをやれば面白いんじゃないかって思った。僕はクイズについてそんなに知らないし、強い興味も持ってはいなかった。けれども、『江夏の21球』の究極版として書き得るスポーツはクイズなんじゃないかっていう思いが、直感としてあったんです。

■作家の直感としてあった「クイズ本来の魅力」

杉江:野球は攻める側と守る側があって、その両側の視点を使えますね。そして、投球ごとに間があるし、止められるんですね。

小川:野球の一番の魅力は、とてつもない速さのストレートだったりコーナーに決まる変化球だったりするし、それをバッターがホームランにしたり進塁打を打ったりすること。やはり身体の部分に依存するところが多い。でも『江夏の21球』は、別のやり方で野球の魅力を引き出した。基本的には、野球本来の魅力ではないですよね。けれどそれがクイズなら、より「クイズ本来の魅力」に近いものができるんじゃないかなっていうのは作家の直感としてあった。

杉江:『君のクイズ』の162ページに、人間の持つ脳の働きを「身体性を帯びた脳の使い方」として描いている箇所があります。スポーツ選手は自身の身体を熟知しているので、それぞれの部位を道具のように駆使して動くことができます。それと同じで、自分の脳がどういう動きをするかを主人公が判断しながらクイズの正答を導き出す。あそこにたいへん感心しました。今、お話を伺っていて、スポーツからその描写についての考えが始まっているということに納得しました。

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こういう脳の動きは小説を書いているときでも起こる…