中国福建省泉州市で、廟の屋根を飾る龍などをモチーフにした棟飾(写真:塚本和人撮影、2020年1月)
中国福建省泉州市で、廟の屋根を飾る龍などをモチーフにした棟飾(写真:塚本和人撮影、2020年1月)

■信長の中国文化を意識したデザイン、家康に受け継がれる

 信長は、安土城天主内部の座敷群についても、当時の文化的価値観であった中国文化を頂点とした世界観で構成したとされます。千田さんは、そうした天主内観と表裏一体となった天主外観の象徴として、一観の助言を得た信長が、中国の正吻の文化的意義を踏まえた上で、独自の鯱瓦を創造したのではないかと想定しています。「最上階のさらに上にそびえた天主の大棟には、一対の鯱が尾を跳ね上げ、見晴るかす世界の安寧を守護した。天主の大棟に輝いた鯱は平和な世の将来を見る者に告げ、そして鯱を戴いた天主は、鯱によって天界と結ばれ、城も地域も鯱によって守護されることを約束した」

 東アジアの伝統と文化に源流を持ち、信長の安土城天主から、江戸幕府を開いた徳川家康が受け継いで発展させた名古屋城の金鯱。その数奇な運命をたどってみると、ロシアによるウクライナ侵攻など未曽有の危機に直面している現在の私たちに、大切なことを訴えていると思います。

■壁画の保存に日本の技術

 最後に、オラーン・ヘレム墓の極彩色壁画のその後についてもお伝えしておきます。長さ8メートルに近い青龍と白虎などの壁画は、発掘直後からカビの発生などに襲われ、「存亡の危機」と言われるほどに劣化してしまいました。そこで、京都の文化財修復会社「彩色設計」の小野村勇人さんとスタッフの皆さんが、モンゴル側からの要請を受け、現地に数回赴いて、精密な壁画の模写や撮影などに取り組んできました。どんな文化財でも一度失われてしまうと、元には戻らないということ、だからこそ、大切に守らなければいけないということも、忘れてはいけないと思います。

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 千田嘉博さんの名古屋城の金鯱についての論考、「千田先生のお城探訪」(朝日新聞地域面連載中)を千田さんの最新刊『歴史を読み解く城歩き』(朝日新書)で読むことができます。新聞連載「千田先生のお城探訪」では、千田さんが国内各地とヨーロッパの城や城跡を実際に歩いてきた経験に基づき、考古学や文献史学などの知見を生かしながら歴史の真実に迫ります。書籍化にあたり、2019年10月から2022年9月までの記事をベースに、最新の知見が加筆されています。千田さんが撮影した各地のお城の美しい写真が満載です。

(塚本和人・朝日新聞東京本社イベント戦略室次長)

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