1980年代に治療計画にCTが導入され、がんを立体的にとらえ、その大きさや形に合わせて多方向から照射する「3次元原体照射(3D-CRT)」が開発された。周囲の正常組織にあたる線量を抑えながら、がんの病巣に線量を集中できるようになり、現在この方法が一般的に使われている。
2000年代になると、3次元原体照射を発展させた高精度放射線治療が登場。その代表が「強度変調放射線治療(IMRT)」と「定位放射線治療」だ。
●IMRT
IMRTは、放射線治療計画装置(専用コンピューター)で最適化計算をおこない、線量の強度を細かく調整する。コンピューターの助けを借りることで、複雑な形状の病巣でも線量を集中させることができるようになった。
「IMRTの恩恵を受けているがんの代表が、前立腺がんです。前立腺は小さい上に複雑な形をしているため、通常の3次元原体照射では周辺の直腸や膀胱を避けて照射するのが難しい。複雑な線量分布を描けるIMRTであれば前立腺に線量を集中でき、直腸炎などの合併症は格段に減りました。口の中や唾液腺などに放射線をあてたくない頭頸部がんでも、欠かせないものになっています」(大野医師)
ほかにも脳腫瘍、肺がん、乳がん、子宮がん、食道がん、直腸がんなどさまざまながんの治療に使われている。
IMRTはほとんどの病院にある「リニアック(直線加速器)」という装置で可能な治療だが、日本放射線腫瘍学会の調査ではがん診療連携拠点病院の約4割以上が「IMRTは実施していない」と回答した。この調査を担当した山梨大学病院の大西洋医師はこう説明する。 「IMRTを保険適用で実施する場合、『常勤の放射線治療医が2人以上(1人は治療経験5年以上)』といった診療報酬上の施設要件があります。実施していない病院の多くがこの条件をクリアできていないと考えられます」
放射線治療医の数は限られており、常勤医2人をそろえるのが難しい病院が少なくない。大西医師はこう続ける。