「いずれも手術ができないケースが対象ですが、従来、薬物療法や通常の放射線治療では十分な効果が得られにくいがんでした。根治を目的とした粒子線治療の効果が認められ、保険でできるようになったことはとても大きいと考えています」
粒子線治療は、現在25施設(重粒子線6、陽子線18、両方1)で実施されている。
■幅広く活用できる放射線治療 局所的な症状緩和や延命も
放射線治療は根治を目的とした治療だけでなく、がん治療のさまざまな場面で役立っている。
症状の緩和もその一つ。放射線が得意とするのは「局所的な症状」で、代表的なものが骨転移の痛みだ。痛みを発している転移巣を狙って根治線量よりも少なめの線量を照射してがんの勢いを抑え、痛みを和らげる。
痛み以外にもがんからの出血を止めたり、臓器を圧迫しているがんを小さくしたりするなど、放射線にできることは多い。脳転移の放射線治療では、頭痛やまひなどの症状緩和だけでなく、延命効果も期待できる。
また近年は、「少数転移(オリゴメタ)に対する放射線治療」も注目されている。広島大学病院の永田靖医師はこう説明する。
「がんが遠隔転移をすると、すでに目に見えないがん細胞が全身を回っていると考え、通常は病巣に対する局所的な治療はおこないません。しかし遠隔転移が少数個(5個程度以下)であれば、転移巣を切除したり転移巣に根治線量の放射線をあてたりすることで、根治に近い状態に持ち込めることがあります。比較的進行が遅い大腸がんや前立腺がんで、こうしたケースが多いとされています」
少数個であっても手術となるとからだに負担がかかるが、放射線治療であれば負担が少なく、挑戦しやすい。適しているのは、高線量をピンポイントで病巣に集中できる定位放射線治療や粒子線治療で、20年からは転移性骨腫瘍および5個以内のオリゴ転移に対する定位放射線治療に保険が適用されている。
「乳がんや肺がんなどでも少数転移を治療できる可能性があります。今後、どのようなタイプならば可能性があるのか、臨床試験で検証する動きが進んでいくと思います」(永田医師)