会社や事業主への負担増になるが、給与所得者の負担は一切増えない。
「もう一つ、アイデアとして出ているのが『子育て連帯基金』という新たな仕組みです。これは医療保険や介護保険、年金など、社会保険料の財源から一定額ずつ拠出してもらい、それを少子化対策の財源とする、という案です」
こちらは事業主だけでなく、給与所得者も負担することになる。そのため、給与明細にそのぶんの金額が明記される。さらに退職した高齢者も社会保険料というかたちで「子育て連帯基金」に支出することになる。
ただし、「子ども・子育て拠出金」と「子育て連帯基金」を合わせても現実的には数千億円の財源にしかならない。
■2%アップを受け入れられるか
児童手当の全体の予算規模は現在、年間約2兆円。
「毎月の給付金額を倍にすれば、それだけで約4兆円の予算が必要になります。多子世帯に対する給付を増やせばさらに予算は膨れ上がる」
土居教授は、「2兆円を超える少子化対策予算の増額を来年度から行うことは多分ない」としながらも、「いずれそうするのであれば、消費税は上げざるを得ない」と言う。
予測する消費税の上げ幅は1%、もしくは2%。
「税率2%の上昇は、十分すぎるほどの上げ幅です。それが実現するかは、少子化対策に力を入れることに対して社会が合意できるかに尽きると思います。逆に、2%も増税されたらたまったものではない、という人が多ければ、月額支給額はそれほど増やせない」
■赤字国債は責任放棄
「赤字国債」を発行して財源をまかなう可能性はないだろうか?
「4月3日の参院決算委員会で、岸田首相が子ども予算の財源として『教育国債』について問われたとき、『慎重に検討する必要がある』と答えました。なので、それは考えていないと、私は理解しています。ただ、自民党内には借金をしてもいいから金を出せ、という人もいますから、赤字国債の発行が土壇場でどうなるか、わかりません」
土居教授は赤字国債の発行によって少子化対策の予算をまかなうのは反対だという。
「つまり、それは将来の子どものお金を使って、今の子どもを支援していくことになってしまいますから。それでは、われわれ大人が子育ての責任を全うしているとは、とても言えないと思います」
土居教授が国会での議論を見ていて心配するのは、財源の問題は確かにあるものの、少子化対策の議論が金銭的な話に著しく偏っていることだ。
「年初来ずっと児童手当の所得制限を外すか、みたいな話に相当なウェートが置かれています。少子化問題はお金を出せば解決できることばかりではありません。経済界や経営者と協力して子育て世帯がもっと時間的な余裕を持てる働き方ができるようにするとか、社会のあり方を根本的に変えるというぐらいの意気込みでないと。そういう意味でも『異次元』であることが必要だと思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)