政府が強化する少子化対策の財源確保に向けた議論が活発化している。一時的にせよ、出生率が回復した北欧諸国やフランスは少子化対策に膨大な財政支出を行ってきた。一方、日本では1990年代から30年あまりにわたり対策が行われてきたが、目立った効果は上がっていない。それに対して岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げたわけだが、先進事例と見劣りしないレベルの施策を行うには数兆円規模の予算が新たに必要となる。その財源はどこからねん出するのか、財政や税制が専門の慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授に聞いた。
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開口一番、土居教授は言った。
「数兆円の財源が必要な少子化対策を実施するには、いずれ消費税に手をつけなければ非現実的だと言わざるを得ません」
一方、こうも言う。
「1兆円に満たない上乗せであれば、増税をしなくても財源を確保できるでしょう。国民にとっても、これくらいならしょうがない、と思えるくらいの負担増で収まる。ただし、金額規模からすれば、とても『異次元』といえるような少子化対策にはなりません」
■具体策のメニューを見たい
岸田首相は少子化対策のたたき台をまとめたものの、予算規模や財源について明言を避けてきた。
「防衛費を増額した際、岸田首相はいきなり2023年度から5年間の総額を43兆円程度とすることを閣議決定して大きな反発を招いた。その反省を踏まえて、今回は施策の内容を示してから世論の反応を見たうえで、予算規模や財源について公表しようとしているのだと思います」
土居教授は具体策の内容を「レストランのメニュー」に例える。
「メニューには値段がついている。例えば、児童手当の所得制限をなくしたり、多子世帯に対してお金を増やしたりすると、これくらい費用がかかりますとか、具体的な金額を示してほしい。それに対して国民が、そのお金は出してほしいから、ちょっとくらいの負担増はしょうがないかな、とか思う。逆に、この給付金額でそこまで負担増を強いられるんだったら、勘弁してほしいとか。そのような段階を踏んで説明していけば、国民は納得感を得られると思います。われわれは健全なコスト意識を持っていると思いますから」