「のびのびと育ってほしい」。そう願いつつも、膨大な情報を前に、何が子どもにとって教育の正解なのか親は迷いがちだ(撮影/今村拓馬)
「のびのびと育ってほしい」。そう願いつつも、膨大な情報を前に、何が子どもにとって教育の正解なのか親は迷いがちだ(撮影/今村拓馬)
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鉄緑会とSAPIXなどの創立をめぐる主な動き(AERA 2018年9月24日号より)
鉄緑会とSAPIXなどの創立をめぐる主な動き(AERA 2018年9月24日号より)

 これでは最初から勝負はついてしまっているのではないか。学歴云々(うんぬん)の前に、どの塾に通えるかが最難関校合格を左右する「塾歴社会」の現実があるという。

【図表】鉄緑会とSAPIXなどの創立をめぐる主な動き

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受験のための数学に関していえば、鉄緑会に勝るものはないと思います」

 筑波大学附属駒場(以下、筑駒)から東大医学部に進学した経歴をもつ医師の男性の証言だ。

 日本の受験における最高峰といえば東大理III。すなわち東大医学部である。東大には毎年約3千人が合格するが、そのうち理IIIの定員はたったの100人。河合塾の2019年度入試難易予想の偏差値は72.5。他学部よりもずぬけて難しい。その東大理IIIに、今年61人の合格者を出した塾がある。「鉄緑会」。つまり東大医学部生の約6割は、鉄緑会出身者なのだ。

 鉄緑会は、東大・京大・国公立大学医学部対策をウリにする大学受験専門塾だ。東京本校と大阪校を合わせても、生徒数は1千人にも満たないはずだが、18年の入試では、東大に418人、京大に84人、国公立大学医学部に484人の合格者を出している(いずれも既卒生を含む)。驚異の合格率を誇るハイエンドな塾なのだ。

「鉄緑会は、結果にコミットしてくれるフィットネスジムのようなところです」(男性)

 言い得て妙。大量の課題をこなす「処理能力」と「忍耐力」があること。そして皮肉を込めて言えば、何より大事なのは、「与えられた課題に疑問を抱かない従順さ」。この三つを兼ね備えていることが、“受験エリート”の条件なのである。

 しかもその内実はベールに包まれている。東京本校には「指定校制度」があり、筑駒、開成、桜蔭など、13の中高一貫超進学校の生徒のみに優先入塾が許される。秘密結社のような塾なのである。他校の生徒でも入塾テストをパスすれば加入できるが、ハードルは高い。前出の男性は言う。

「そういう意味では指定校以外の学校から来ている生徒はすごいなと思いました。常にアウェーなわけですから」

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