森郁恵さん
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 教授や准教授への応募を女性に限る。こうした「女性限定公募」を昨年、東北大学と東京工業大学が相次いで実施して話題になった。先駆けること10年余、名古屋大学でこれを推し進めたのが、当時大学院理学研究科でただ一人の女性教授だった森郁恵さんだ。線虫という小さな生物を使って、行動をコントロールする神経の仕組みを解き明かしてきた。その業績が評価され、今年3月、江崎玲於奈さんを始め多様な分野のそうそうたる研究者が受賞している東レ科学技術賞を贈呈された。日本を代表する神経科学者の一人である。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)

【写真】オスを見分けられる?体長はわずか1ミリの線虫

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――大学に女性研究者を増やそうと積極的に取り組んでこられましたね。

 私は研究者なので、研究をちゃんとしたい。そのために日本の女性研究者問題を解決しなければならなかった。大事なのは、意思決定する場に女性を増やすことです。名大は35人の評議員のうち7人は女性から選ぶことをルール化しました。残りの評議員は部局長。こちらで3人の女性が選ばれたので、2022年度は合計10人の女性がいました。私はルール化されてからずっと評議員を務めていましたが、35人中10人が女性だと、女性の意見も反映されるので、やっぱり変わりますよ。「メンズクラブ」で決めるというのは通用しなくなります。 

――そうでしょうね。2011年には女性限定の教授公募で、上川内あづささんが採用されました。東京薬科大学の助教から36歳でいきなり名大教授になった。夫を東京に残し、赤ちゃんを連れての赴任でしたね。私はご本人に取材したことがありますが、「女性のみという条件が、応募する気持ちを後押ししてくれた」と語っていました。

 彼女は東京大学薬学部で博士号を取り、ドイツで3年研究してきた神経科学者です。彼女が名大に来たことで、実は私が解放された。頭がひらめくようになって、すごくびっくりしました。それまでは(女性が)1人しかいなかったので、どこか緊張していたんでしょうね。

 上川内さんの能力が発揮されるんだったら、私は子守でも何でもする。それは私には苦にならない。大事なのは女性の研究力を強化することです。結果として上川内さんの子が私に懐いちゃって、「森先生隠し子説」が出た(笑)。

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結婚を捨てたというのは一度もない