「東京消防庁の管内では、高齢者(65歳以上)の食べものなどによる窒息の救急搬送が年間約1700件も発生しています。つまり自宅で普通に暮らしている高齢者のうち、都内だけで1日に4人以上が窒息を起こしているということ。やこんにゃくゼリーばかりがクローズアップされますが、実はパンによる窒息事故は死亡率が高い。ごはんのように水分でバラバラにほぐれないから詰まってしまうんですね」(同)

 窒息による救急搬送が増えるのは50代から。飲み込む力の低下は、外見や体力の老化と違って気づきにくい。

「口が衰えれば活動に必要なエネルギーが不足するので、だんだん動かなくなって閉じこもりがちになり、社会から孤立して、免疫力も低下します。またしっかり飲み込めなければ食べものが誤って気道に入り、誤嚥性肺炎を起こしやすい。衰えを食い止めるには、積極的に筋肉を鍛える必要があります」(同)

 簡単にできる筋トレが、「頭部挙上訓練」と「舌前方保持嚥下訓練」だ。舌前方保持嚥下訓練は、あかんべえのように舌を少し出したまま唾を5回飲み込む。

「筋力は『噛む』ためにも不可欠。人間の体で最も大きな免疫器官である腸では、腸壁にあるヒダ部分が体に侵入してきた細菌などと常に戦っています。ところが、軟らかいものや、あまり噛まずに飲み込めるようなものばかり食べていると、腸のヒダはどんどん小さくなってしまう。『固形物を食べられないと免疫力が落ちる』という研究データもあります」(同)

 硬いものをよく噛んで食べ、腸に刺激を与えることでヒダの大きさは元に戻る。また、普段の生活で肉や食物繊維など、ある程度の硬さの食物を食べていれば、それらが口の中でかき回されて粘膜や歯の表面に強く当たり、ブラッシング効果で口内細菌を減らすことができる。会話をするときにも、舌や歯、粘膜などが擦れ合うことにより、同じ効果が得られるという。

「おいしく食べて健康に楽しく100年以上生きるために、口の中をきれいにし、口の筋肉を積極的に鍛えましょう」(同)

(ライター・谷わこ)

AERA 2018年4月2日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼