■アメリカ追従という自己矛盾

 安倍晋三政権も「戦争で失ったものは戦争で取り返す」などとは言わなかった。日本は戦間期の思想を持とうにも持てない。理屈としては、次の戦争の相手はアメリカ、ロシアあるいは中国になるが、たとえば中国に対して、日中戦争で失ったものを取り返すといった軽口を叩くだけでも大騒ぎになるはずだ。

 しかし、安倍政権が成立させた秘密保護法や安保法制の内側には、「俺は昔の俺になりたいんだ」というある種のナショナリズム、そして戦間期の思想の危険性が秘められているように思う。「戦後レジームの見直し」という論は、奇妙な二重性を孕はらんでいる。その意味では、日本は自己矛盾を抱えているのだ。

 つまり、日本は太平洋戦争でアメリカに負けたから国益を失った。それを取り返すならアメリカともう一度戦争をして勝つしかない。しかし現実には、日本はアメリカの庇護のもとにいる。アメリカの属国のようなものだ。親分は自分のおかげで飯が食えている子分の反抗を許すわけがない。

『自発的隷従の日米関係史 日米安保と戦後』(松田武、岩波書店、2022年)によれば、アメリカ政府は今なお日本を十分に信用していない。なぜなら、いざとなると何をするかわからない国だから。真珠湾攻撃の影響もあって、日本は真正面から意見を言わず、裏に回ると平気で裏切るような態度を取る、国際社会の礼儀が通用しない国と思われている。それがアメリカの基本的な考えだ。だからアメリカは、決して日本に核を与えたり自主防衛を許したりしない。日本を軍事的に封じ込めて、自分の目の届くところに置いておくことで日本を支配している――。一読してなるほどと思った。

 歴史的に言えば、今日の日本国民は日米安保条約という固定した秩序、日本をアメリカに従属させるこの秩序のもとで生まれ、死んでいく。私たちは身も心も自主独立で生きている国民とは言えないだろう。

◎保阪正康(ほさか・まさやす)
1939年、北海道生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学文学部社会学科卒業。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。延べ4千人に及ぶ関係者の肉声を記録してきた。2004年、第52回菊池寛賞受賞。『昭和陸軍の研究』『ナショナリズムの昭和』(和辻哲郎文化賞受賞)『昭和史の急所』『陰謀の日本近現代史』『歴史の予兆を読む』(共著)など著書多数。

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