東京・大手町のオフィス街。重機がフル稼働する再開発エリアの一角だけが保全されている。平安時代の武将、平将門の飛んできた首を祀ったとされる史跡「将門の首塚」の敷地だ。
ここは単なる聖地ではない。「撤去しようとしたGHQ(連合国軍総司令部)の重機が横転した」など、たたりがあるとの言い伝えも残る。首塚にお尻を向けて座らない会社もあるとか。近くのオフィスで働く男性(59)は言う。
「取引のときは社内に祀っているお稲荷さんに祈ります。ここに来るのは周囲が不幸や災厄に見舞われたとき。商売っ気がない、武骨な神さまという印象。そこが魅力なんです」
先行き不透明な時代が人々を「祈り」に向かわせるのだろうか。国学院大学の石井研士教授(宗教社会学)はこう見る。
「日本人の宗教性の特徴の一つですが、神仏に祈って、うまくいかなくても呪詛(じゅそ)はしません。自分を超えた何者かにこうべを垂れ祈るとき、真摯(しんし)な心の状態になるんじゃないでしょうか」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2018年1月15日号