むしろ、生半可な知識を詰め込み、凝り固まった状態で入学すると、現実の科学技術の世界を受け入れることの妨げになってしまうこともあるという。

「志が高いのはよいことですが、最初から学びたいことを絞りすぎてしまうと、誤った科学技術の理解につながりかねません。ぼくらは学生に幅広い知識を与えます。それを学んだうえで、自分が最初に思い描いていた道をそのまま進むべきなのか、考えてほしい。そこで、初志を貫いてもいいし、全然違ったな、と思ったら方向転換してもいいんです」

 これは東工大ならではのことだが、学部生の約9割が大学院に進学する。その際、専攻分野を変更することに何の制約もない。

隣の芝生はいつも青い

 自分の選んだ道が本当に正しいのか、不安になる学生もいる。というか、それがふつうだろう。

 それに対して益学長は「隣の芝生はいつも青く見えるんです」と口にする。

「ぼくの場合もずっとそうだった。高専から大学進学を考えたとき、普通高校にいっていればよかったかな、とか。東工大に編入学したとき、東北大のほうがよかったかな、とか。どんな選択をしても隣の芝生は青く見えるものです。学生には、心配するな、自分の決断を信じろと、いつも言っています」

 気分を切り替えるには課外活動に打ち込むのもいい。それは学生にとって活力の源泉でもある。益学長はマサチューセッツ工科大学(MIT)を例に挙げる。

「MITは全米トップレベルの工業系大学ですが、あそこの学生は課外活動を平均四つもやっている。平日はひたすら勉強して、土日や夏休みに課外活動をしているのだと思いますが、それが人間力や人とのネットワークを生み出す。いろいろな人と触れ合うことでインスパイアされて(刺激を受けて)勉学にも注力できる。何かうまくいかないことがあっても落ち込まないことにつながるんじゃないでしょうか」

何のための大学か

 そもそも大学は、社会に貢献できる人を育て、輩出する責務がある。

 日本の大学は入学試験を厳格に行うが、冒頭に書いたように入試結果と卒業時の成績には相関がない。であれば、入学者選抜の基準を緩やかにして、卒業基準を厳しくしたほうが大学本来の目的に沿うことになる。実際、海外の大学ではそれが一般的だ。

「世の中に貢献できる人を出すには、大学に入ってからのことのほうが大事なわけです。もちろん学生が努力することも必要だし、大学も学生を育てることに注力する。なので、『1点差入試』といわれるような入口管理ばかりに目を向けるのではなくて、教育の中身や出口管理に力を入れることも重要でしょう」

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いろいろな評価軸を用いることが理想形