留学生たちはすでに社会に出始めている。海外大学でどのようなキャリア観が培われ、その一歩を踏み出しているのだろうか。東大志望だった清水優紀さん(22)が米大学に志望変更したのは高校2年の終わり。中学から専門塾に通い「このままいけば合格圏内」と目されていた。
●スキル獲得のため就職
「生物学に興味があったので、東大理IIを目指していました。でもそれを本当に将来の仕事にしていいのか迷いがありました。米国の大学では学部を絞り込まずに受験でき、幅広い学びのなかで自分の将来を考えられると知り、魅力を感じました」
幼稚園から高校まで都内の白百合学園に通い、塾も似たような環境で育った人たちが多い。「狭い世界」しか知らず社会に出ることにも不安を感じていた。
清水さんは現在、ジョージタウン大学の4年生。3年生時には1年間、香港とロンドンの大学で学び、世界各地に交友関係が広がった。取材時は北欧と英国へ友だちを訪ね旅行中だった。卒業後は日本の大手金融機関への就職が内定している。
「大学では経済学を専攻しました。留学で得たことを日本経済に還元したいです。他国で同業の仕事に就く友だちも多いので刺激になります」(清水さん)
清水さんが就職活動に活用したのはボストンキャリアフォーラムだ。留学生を対象とした就職イベントで、16年は約200社、延べ1万人が参加。参加企業の一覧には多くのトップ企業が名を連ねる。しかし、ふと思う。そうした企業には東大をはじめ国内大卒者も就職する。卒業後の出口が一緒となると「留学の甲斐」はあるのだろうか?
フォーラムを主催する、ディスコのグローバル事業企画部・大掛勲副部長は次のように語る。
「留学生には、国内学生のような就社意識は薄い。ステップアップを前提に、スキル獲得を重視して就職を考えている」
●あえて国内企業で優位
海外トップ大留学塾igsZの福原正大代表は指摘する。
「超トップの留学生には企業は直接アプローチする。国内の就職でも留学生は特別枠での採用だったり、外資系では本社への出世にもつながる別のキャリアパスを用意するなど条件が違うケースが多い」
米大学を卒業後、一貫して外資系金融畑を歩む男性(34)は、「業種によって事情は変わる」と言う。ITのエンジニアは初任給で年収1千万円を超え、米国で仕事をしたほうがメリットは大きい。しかし金融界は世界中から優秀な人材が集まる。圧倒的な白人社会で、日本人がCEOまで上るのは容易ではない。