日本の学歴社会の頂点に君臨してきた「東大法学部」。政財官に人脈を伸ばし、国を支えてきたえたエリートたちの母体だ。良くも悪くもスタイルを変えてこなかった「象牙の塔」にも、時代の激変の波は押し寄せる。偏差値序列社会は終わるのか。かつて「砂漠」と称された東大法学部はいま、脱皮の時を迎えている。AERA 2017年3月27日号では、東大法学部を大特集。
「東大ではなく海外のトップ大学」という新たな留学の流れが生まれている。卒業生たちはどのようなキャリアの第一歩を踏み出しているのだろうか。
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「米グーグルやパランティアでインターンを経験し、ITの先端でいま仕事のチャレンジができるのは、留学したからこそ得られた貴重な切符だと思います」
2016年5月にハーバード大学を卒業。サンフランシスコのIT企業に勤める山田寛久さん(23)はそう語る。東京大学にも合格したが、ハーバード大に進学した理由を次のように語る。
「東大には麻布高校の同級生もいるので楽しく過ごせるのはたしか。でも『世界一と言われる大学』への憧れと、だれも知る人のいない所でチャレンジしたい気持ちのほうが勝りました」
大学ではコンピューターサイエンスを専攻。勉強はハードで就寝は日々午前0時をまわった。しかし興味ある内容だったので苦にならなかったという。悩まされたのは「言葉の壁」。5歳から8歳までと、中学3年からの2年間を海外の英語環境で過ごした山田さんにしてもだ。
「英語はそれなりのレベルにあると自負していますが、学校教育の大部分は日本語で受けてきた。同じ土俵で戦うのやはり大変で、大いに鍛えられました」
●親が国内限定に危機感
優秀なクラスメートたちは大学3年でスタートアップに入っていった。山田さんはいずれ日本に帰るつもりだという。
「フェイスブックやグーグルなど世界共通で使われているものは米国発が多い。世界での、日本のテクノロジーのプレゼンスを上げることに尽力したいです」
バブル崩壊とその後の景気低迷を受けて、海外留学は減っている。40年以上留学カウンセラーをつとめる栄陽子さんは言う。
「米国留学生数は、1997年のピーク時の半分以下。今は2万人を切っている。経済的な理由が一番大きいです」
一方で「東大ではなく海外トップ大学」という新たな留学の流れも生まれた。子どもの将来を日本国内に限定して考えることに危機感を覚える親が増えたからだ。ベネッセは専門塾「ルートH」を開校。開成高校も合格大学一覧に海外大学の名を記すようになった。