ペット連れの地元の人も多い。鎌倉ではガーデニングに一家言ある人も多く、緑はこの店が愛される理由の一つのようだ。「鎌倉では流行最先端の店構えにしても、鎌倉らしくないと成功しない」と教えてくれた。

 ジョージさんとともに、観光客で賑わう小町通りへ向かった。

「昔はもっと寂しい道だったけど、通りの入り口に鳥居をつくってから観光客が多く来るようになったみたい」

 通りを入ってすぐの横丁を右に折れると、彼が子どもの頃からなじみの甘味処「納言志るこ店」がある。歯医者が大嫌いなジョージ少年をなんとか歯医者へ連れていこうと母が知恵を絞ったのがこの店だった。

「氷なら僕は昔から食べているイチゴミルクが好き。冬なら田舎しるこ。外観も店の中も子どもの頃からほとんど変わってない。観光客にも地元民にも人気のあるお店です」

 歩いていると、地元の人たちや店員さんに声を掛けたり掛けられたり。そんな人と人の距離感も鎌倉の魅力だ。小町通りを抜け県道にぶつかったら右折し、八幡宮前へ。

●歴史と新しさミックス

「鎌倉といえば大仏というのは観光客。地元民にとって鎌倉の象徴は鶴岡八幡宮、八幡様」

 地元民は結婚式を八幡宮で行う人が多いとか。もちろんジョージさんもそうだった。八幡宮を背にし、若宮大路の中央にある参道「段葛(だんかずら)」を海に向かって歩く。ここは源頼朝が妻・政子の懐妊を機に、安産祈願を込めて造ったとされる、由比ケ浜から鶴岡八幡宮までの参道の一部だ。歴史があるにしては新しいと思ったら、今年春に整備工事が完了したばかりだった。

「八幡様へ近づくにつれて道幅が狭くなっているでしょ。八幡宮から見下ろすと段葛はまっすぐに見えるようになっているんだよ。逆に、参拝者からは遠近法を利用して、八幡宮を遠くに見せようとしているんだ」

 この後、鎌倉市農協連即売所にぶらっと立ち寄り、由比ケ浜へ。サーファーの彼には海のない生活は考えられない。

「鎌倉にはサーフィンのポイントがある。ここなら年を重ねてもサーフィンができて最高だよ」

 そのポイントと逗子海岸の間、国道134号の海側の崖の上にある「surfers」も「ぜひ行ってほしいカフェ」と言う。メインの建物以外はサーファーたちの手でつくられた。カリフォルニアを思わせる絶景が広がっている。ジョージさんに鎌倉の魅力を改めて尋ねた。

「歴史に新しさがミックスされて新たな魅力を生み出している。お寺でライブをやったり落語をやったり。何でも受け入れることが大事なんだと鎌倉で教えられたよ」

 鎌倉の山から海へと歩き回ったこの日、歩数計は2万歩強を記録。人を飽きさせない魅力の詰まった場所だ。(フリーランス記者・坂口さゆり)

【安野さんオススメ!】

■鎌倉みよし
行列のできる手打ち釜揚げうどんの店。営業はうどんがなくなり次第終了
鎌倉市雪ノ下1-5-38 こもれび禄岸1階

■香司 鬼頭天薫堂 鎌倉
オリジナルのお香や高級線香、季節限定商品や香炉など豊富な商品をそろえる。香道や生け花教室も開催
鎌倉市雪ノ下1-7-5

【鈴木さんオススメ!】

■中国茶房 悠香房
「来店客にもっと中国茶を楽しんでもらいたい」と理想的な環境を求めて鎌倉にオープン。ゆったりした時間も楽しめる
鎌倉市扇ガ谷4-5-25

◎ここもオススメ!

■香菜軒 寓
テイクアウト中心。 鎌倉市材木座3-1-7

■MISORA cafe
「親子で野菜を楽しむ」カフェ。 鎌倉市長谷1-2-8

【ジョージさんオススメ!】

■GARDEN HOUSE
手づくりと地域密着をテーマに展開。湘南の旬の食材を使った北カリフォルニアスタイルの食事を提供
鎌倉市御成町15-46

■納言志るこ店
1953年創業。大佛次郎など鎌倉文士も愛した名店。上質のつぶあんを使ったお汁粉やぜんざいが人気
鎌倉市小町1-5-10
水曜日、第3木曜日定休

◎ここもオススメ!

■surfers
不定休。
逗子市新宿5-822-2

AERA 2016年9月12日号